高齢者歯科の実際 〜超高齢社会における歯科治療の最前線〜

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高齢者歯科の実際 〜超高齢社会における歯科治療の最前線〜
日本が超高齢社会となってから10年以上が経過し、高齢者人口の割合はますます増加しています。高齢者の受ける歯科治療はオーラルフレイル(口腔機能の虚弱)と全身疾患との関連や、入れ歯治療など若年層とは違った特有の知識が必要とされます。 今回は、東京医科歯科大学 高齢者歯科学分野教授である金澤学先生に、高齢者の口腔ケアの重要性と、歯科医院の選び方について伺いました。
出演医師 義歯(入れ歯) インプラント

金澤 学 先生

東京医科歯科大学 歯学部付属病院

超高齢社会に必要とされる高齢者歯科

高齢者歯科とは、高齢者の特有のニーズに応えるための専門的な歯科医療の分野です。

 

高齢患者さんは歯科疾患と同時にさまざまな全身疾患を抱えていることが多く、糖尿病や高血圧などの全身の健康状態を管理しながら、口腔機能の低下に対処する必要があります。口腔の機能低下にも大きく2つの原因があり、歯の疾患としての欠損と、神経・筋肉の衰えによる咀嚼機能の低下が問題となります。

 

欠損に対しては補綴(入れ歯やインプラントなど、人工物でなくなった歯を補うこと)歯科治療が必要ですし、神経や筋肉の衰えに対しては検査・管理を行う必要があります。

また、高齢者の歯科治療は歯科診療所で行われるだけでなく、訪問での診療や在宅診療も含まれるため、一般的な歯科診療とは違った技術や知識、設備が必要とされます。

 

高齢者歯科に注力している歯科医院の特徴

最も大切なことは正確な検査と診断です。まず、適切な検査ができたうえで診断を行い、治療に入っていく必要があります。

 

疾患による口腔機能低下と、加齢による口腔機能の低下は分けて考える必要があるので、ここをきちんと分けて考えたうえで治療計画を立てられる歯科医院は良いところだと思います。

 

いい医院さんを探す際の目安は?

一般的に歯科の疾患というとむし歯、歯周病、欠損が挙げられるのですが、オーラルフレイル(疾患名としては口腔機能低下症)も近年新しく疾患として知られるようになってきました

 

歯科医院にはそれぞれ得意としている治療分野がありまして、根の治療が専門の先生、子供が専門の先生、外科治療の得意な先生、本当にさまざまです。

そのような中で、オーラルフレイルに対する検査に注力している、それを医院の売りにしているような歯科医院は高齢患者さんにとっては良い歯科医院だと思います。

 

大学病院と一般の歯医者さんの違いとは?

大学病院で行っていることは一般の歯科診療所と比べて大きく違うわけではありません。そのような中でも違いを上げるとするなら、入れ歯など歯科技工物のクオリティや検査機器、用いられる器具材料が最先端のものであることが多いです。

 

診療のクオリティにつながるところでは、勤務している歯科医師の違いとして専門医がいます。

東京医科歯科大学には高齢者歯科を専門とする「日本老年歯科医学会」の専門医がいますし、入れ歯などの補綴物に関しても「日本補綴歯科学会」の専門医がいます。

 

一般開業されている歯科医師の中にも当然これらの専門医の先生はいますので、一つの明確な目安として参考にしてみてください。

 

入れ歯や被せ物の治療には歯科技工士さんの力も必要になりますよね

やはり歯科医師歯科技工士とのコラボレーションは非常に重要で、しかしながら技工士さんとのやりとりは患者さんからはなかなか見えない部分です。

 

例えば、歯科技工士が直接患者さんの前に来てくれるような歯科医院もあります。これらは入れ歯や被せ物の治療に力を入れており、歯科技工士との連携も上手く取れている歯科診療所だと思います。

 

訪問診療をしっかりされている歯科医院は?

訪問歯科診療では、大きく分けて積極的な治療定期的なメインテナンスの2つのアプローチがありますが、特に後者のメインテナンスが重要です。

 

訪問診療ではどうしてもやれることが限られてしまうのですが、定期的なメインテナンスを受けることで、しっかりと経過を観察しながら必要な際には介入することが可能になります。

 

何かあった際にのみ診察するのではなく、定期的にメインテナンスに来てくれる医院さんをおすすめしますし、これは訪問診療に限ったことではないので、定期的なメインテナンスを受けていない方はぜひ歯科医院さんにお願いしてみてください。

 

全身疾患との関連

例えば施設に入っている場合など、訪問で来られる歯科医師医師が連携できている場合は非常にいい診療がされていると思います。これが在宅になると介護者によってしまうのですが、歯科しか来てもらっていないという場合は、ぜひ医科のお医者さんにも定期的に来てもらった方が良いかと思います。

 

例えば歯を抜かなければならないとなったとき、全身的な病気も同時に患っている場合が多いです。

そのような場合に医師と歯科医師がお互いに診療情報提供のやりとりをして、歯を抜く前に特定の薬の服薬を止めたり別の薬に変えてもらったりといった連携が必要になります。

 

よくある質問:入れ歯のケアと寿命

被せ物や入れ歯には寿命があって、被せ物は10年から15年のうちに30~40%は交換になるというデータがありますし、入れ歯の場合は一般的には5年から10年で交換と言われています。

 

ただしこれらは平均値なので、適切なケアを行うことで寿命は延ばすことができます。

定期的にメインテナンスに通っていただくことと、皆さんのケアも非常に重要です。

 

使い方によっては平均より長持ちする可能性は十分にありますので、ぜひ頑張って磨いてくださいとお伝えしています。

 

高齢者対応歯科医院の探し方 まとめ

高齢者が安心して治療を受けられる良い歯科医院を見つけるためのポイントを紹介します。

 

1. 検査の充実

高齢者歯科では、徹底した検査が重要です。検査の結果に基づいて、適切な治療計画を立てることができる歯科医院は、高齢者にとって安心して治療を受けられる場所となります。検査には、口腔内の状態を詳細に把握するための各種検査機器が必要です。

 

2. オーラルフレイルへの対応

オーラルフレイルへの対応を重視している医院を選ぶと良いでしょう。この対応がしっかりしている医院は、総合的な口腔ケアに優れています。フレイルに対する治療には、口腔リハビリテーションや食事指導が含まれます。

 

口腔リハビリテーションは、口の筋肉を鍛え、咀嚼や飲み込みを改善するための運動療法です。食事指導は、栄養バランスの取れた食事を提案し、口腔機能の維持と向上を図ります。

 

3. 専門医・指導医の有無

日本老年歯科医学会の専門医がいる医院は、高齢者歯科の専門性が高く、安心して治療を受けられます。また、補綴治療のスペシャリストとしては日本補綴歯科学会の専門医が挙げられます。

 

専門医資格は、その分野に対する深い知識と経験を持つことの証明であり、信頼性が高いです。

専門医の資格を持つ歯科医師が在籍する医院を選ぶことで、高齢者のニーズに合った質の高い治療を受けることができます。

 

訪問歯科診療の特徴 まとめ

訪問歯科診療は、高齢者の生活の質を向上させるために重要な役割を果たします。

 

1. 定期的なメインテナンス

訪問歯科診療では、定期的なメインテナンスが重要です。毎月でなくとも、定期的な訪問で口腔内の状態を継続的にチェックし、戦略的な経過観察と必要なときに必要な治療を適切に行うことができます。

 

2. 医科との連携

全身疾患を抱える高齢者のために、医科との連携が重要です。歯科と医科の専門家が協力して診療を行う医院は信頼できます。

医科と連携することで、全身の健康状態を把握しながら、最適な歯科治療を提供することができます。医師と歯科医師が連携して、適切な治療とメインテナンスを行うことで、患者の健康を総合的にサポートすることができます。

 

最後に:患者とのコミュニケーションの重要性

患者と歯科医師のコミュニケーションは、治療の成功に不可欠です。

言いたいことがあればなんでも言っていただくことで、歯科医師も治療の選択肢をしっかりと説明し、患者さんも納得した上で治療を進めることができるはずです。

 

できることはいくつもあるので、多くのオプションがある中でお話をよく聞いていただいて、ご自身にとって本当にいい治療を進めていただければと思います。

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