気候変動の現状と健康への影響は?対策の具体例を紹介

気候変動の現状と健康への影響は?対策の具体例を紹介
熱中症の急増からみられるように、気候変動は健康に大きな影響を与えています。社会レベルで積極的な対策を取ることが求められている中、健康増進は温室効果ガスの排出抑制にもつながっています。 今回は、東京大学大学院医学科研究科国際保健政策学の教授を務める橋爪真弘先生に、気候変動の現状と健康への影響、対策の具体例について解説していただきました。
出演医師 その他

橋爪 真弘 先生

気候変動の現状

 

産業革命以降、世界の平均気温は1.45度以上上昇しており、最も高い気温の中で暮らしている状況です。世界では、気温上昇を1.5度未満に抑えることを目標に対策が進められています。

しかし、この目標を達成するには、今世紀半ばまでにCO₂排出量をゼロにしなければなりません。現実的に考えられるのが、気温上昇を3度に抑える目標ですが、1.5度未満の目標に近づけるために、積極的な対策を取る必要があります。

暑さによる健康への影響例

 

人口の多い中国やインド、超高齢化社会の日本を中心に、熱波に曝露する高齢者が増加しています。国内では年間約1300人が熱中症で亡くなっており、自然災害による死亡者数の5.5倍に当たります。

とくに、熱中症の救急搬送数は毎年7万人で、その半数は高齢者です。熱中症の約4割は住居で発生しており、高齢者が自分で気づかないうちに熱中症を発症している状況です。

また東京都のデータでは、熱中症による死亡の9割は高齢者で、さらにその90%がエアコンを使用していなかったと報告されています。エアコンの使用は気候変動に対する対策にはなりませんが、熱中症の予防効果があります。高齢者はエアコンの使用をためらわないことが大切です。

気候変動関連死の増加

 

気候変動はさまざまなルートを通して私たちの健康に影響を及ぼします。気候変動によって亡くなることを気候変動関連死といいます。気候変動による過剰死亡は、2030~2050年のあいだに、発展途上国を中心に毎年約25万人発生すると予測されています。

気温上昇にともなって、熱中症や暑熱関連死の急増、蚊媒介性感染症の流行地域の拡大、洪水によるケガや水系感染症の増加、食糧価格の高騰による栄養失調の子どもの増加等のリスクが懸念されています。

気候変動の緩和策と適応策の具体例

 

気候変動に対する対策には、緩和策と適応策を同時に進めることが大切です。緩和策は、温室効果ガスの排出を抑制して、気候変動を抑える対策です。ただ、すでに大気中に温室効果ガスが蓄積しているため、温室効果ガスの排出量がゼロになっても、数十年は地球温暖化が続くとみられています。

これに対して、気候変動による被害を軽減するために、社会や個人行動を変えるのが適応策です。「熱中症警戒アラート」など、日本の熱中症対策も適応策の1つです。

とくに日本のCO₂排出の6%は医療分野です。このうち医療資材や薬剤の生産・輸送に関わるサプライチェーンによる排出量が70%を占めており、社会全体での取り組みが求められます。

 

また医療分野のCO2排出量の25%は、入院医療によるものです。健康増進を図り入院を予防することは、気候変動の緩和策にもつながるといえるでしょう。また同じ効果やコストのものであれば、温室効果ガスの排出が少ない治療や薬剤を選んだり、採血など過剰な検査を省くことも重要です。

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