前十字靭帯の再建術を行う場合、多くの人は自分の腱を自家移植するという方法をとります。
この時に用いる腱をどれにするかによって、手術の方法やその後のリハビリ期間などが変わってきます。
よく使われる腱としてまず挙げられるのは膝蓋腱です。
膝蓋腱を使う場合、膝蓋骨をつけたまま腱を採取し移植することができるため、移植した後に骨が再生しやすく、作られる靭帯が頑強になりやすいというメリットがあります。
ただし、膝蓋腱は大腿四頭筋という大きな筋肉の腱であるため、腱の採取によって筋肉が回復するまでに時間がかかるというデメリットがあります。
前十字靭帯再建に使われるもう1つの腱として、膝裏(ハムストリング)の腱が挙げられます。特に半腱様筋という筋肉の腱を用いることが多いようです。
半腱様筋は細い筋肉であるため、正常でもあまり力がかかっていない部分です。そのため、筋から腱を採取した後の筋力低下が少ないというメリットがあります。
ただし、膝蓋腱よりも骨と腱の癒合に時間がかかるため、完全な再建に長期間を要するというデメリットがあります。
前十字靭帯を再建する手術で、一番大きなポイントは、前十字靭帯が本来付着している位置に穴を開けることです。
たった2mm、3mmでも穴の位置がずれると、前十字靭帯の機能はかなり低下してしまい、機能的な靭帯を取り戻すことは難しくなります。
このため、手術をしても膝の安定性が取り戻せないということになり、二次的に半月板を損傷したり、さらに進行すると変形性関節症に至ることもあります。
前十字靭帯の再建は非常に厳密な手技が求められる手術と言えます。
他の外傷や整形外科手術と同じように、前十字靭帯再建後のリハビリテーションは非常に重要です。
リハビリテーションの大きなポイントは、早期復帰を焦らないということです。前十字靭帯の再建術は移植手術であるため、移植した腱が移植した場所で成熟して、安定して強くなるまでにはある程度の時間がかかります。
したがって、焦らずに着実なリハビリテーションを行うことが、完全再建への近道となります。
前十字靭帯損傷・再建術のリハビリテーションには、最低でも半年間が必要であると言われています。
再建して早期のうちは、しっかりと足を付けて行うスクワットのような筋力トレーニングをマシーンを用いて、安全な状態で行います。徐々に全体重をかけた歩行、スケーティング、さらにスクワットやジョギングへと進めていきます。
さらに、スポーツ選手の場合は、それぞれの種目に適した動作をリハビリテーションとして行なっていきます。
前十字靭帯損傷は選手生命の終わりであると言われていた時代もありましたが、現在ではこのような再建術と確実なリハビリテーションでスポーツに復帰することができます。
前十字靭帯を損傷すると、スポーツや運動を止めたとしても、半月板損傷など二次的な怪我を引き起こす可能性が高くなります。
さらに放置をしてしまうと、将来的に膝の関節機能が落ちてしまい、変形性関節症を発症してしまうケースもあります。このような状況を避けるためには、適切な手術・治療を行うことが大切です。
前十字靭帯の再建術は専門性の高い手術であるため、手術症例の多い医師や病院で診察してもらうのが良いでしょう。
自分の生活状況やスポーツ活動への影響などを考慮して、主治医とよく相談して、治療の方法を選びましょう。