性腺機能障害における妊孕性温存療法:選べる方法、そのプロセスとは?

妊よう性
生殖補助医療(ART)
性腺は、生殖に必要な臓器の総称です。性腺機能障害は妊娠可能性に直結します。性腺機能障害は様々な原因で起こりますが、特に後天的にはがん治療による障害があります。今回は、婦人科がん治療によってどのように妊孕性に影響があるのか、妊孕性温存のための治療法やその選択プロセスなどについて、岐阜大学医学部附属病院 周産期・生殖医療センター長の古井 辰郎先生に教えていただきました。

 

婦人科がんにおける妊孕性温存療法:主治医と十分に議論して選択を

 

 

婦人科がんの治療では、ある程度進行したがんであれば、子宮や卵巣を摘出するのが基本です。

子宮を摘出した場合、卵子だけを凍結保存などしていても、がん治療後の妊娠は困難となります。

 

非常に初期の子宮頸がん(卵巣がん)であれば、左右どちらか健康な方の卵巣を残すという治療を選択することもあります。

これはある程度の安全性を確保した上で選択される治療です。

「明日にでも抗がん剤治療が必要だ」という患者さんに対して、卵子・卵巣の凍結保存は、現実的には難しいと言えるでしょう。

 

具体的な妊孕性温存の選択肢

 

乳がんでの治療では卵子を摘出するために、排卵誘発という操作を行います。

これは短くて10~14日程度かかる操作であり、その期間はがん治療ができないため、治療に遅れが出ます。

また、排卵誘発をすることによって女性ホルモンが増加し、乳がんの進行に悪影響を及ぼす可能性は否定できません。

そのため、手術が終わった後、抗がん剤治療を行う前に、凍結保存をする方法や、白血病の治療であれば初回の治療がひと段落して全身状態がある程度改善したタイミングで凍結保存をする方法があります。

 

胚、未受精卵、卵巣組織凍結の比較

 

いずれの方法を選択する場合でも、まずは患者さんの原疾患(ここではがん)の状態を、主治医とともに確認した上で、患者さんにとって妊孕性温存・卵子保存などが本当に可能なのかを、一緒に議論して理解することが大切です。

 

 

 

妊孕性温存療法における患者意思決定の重要性:カウンセリング体制の整備が重要

 

 

生殖医療において、卵子保存はあくまでも子どもを持つ可能性を温存するための選択肢の一つに過ぎません。

特別養子縁組など、卵子保存以外の方法で子どもを持つという選択肢もあります。

 

がん患者さんは、告知されて同時に発生する問題に対して、短期間のうちに、不確実性を持ったまま、いくつもの意思決定をしなければなりません。

幅広い情報提供を行い、患者さんの意思決定を支援するためのカウンセリングが出来るような体制を作ることが、生殖医療を行う上では重要となっています。

 

日本産婦人科学会では、医学適応による卵巣組織凍結保存に関する施設登録が行われています。

実際に凍結保存を行う場合には、ここに登録されている施設で保存を行うのが良いと考えられます。

 

 

 

婦人科がんの予防:HPVワクチン接種の普及が急務

 

 

婦人科がん、特に子宮頸がんの予防には、子宮頸がん予防ワクチン「HPVワクチン」の接種がより普及されることが非常に重要です。

また、子宮頸がん検診の受診率を上げることも重要です。

現在日本では、子宮頸がん検診の受診率が非常に低い状況です。

 

子宮体がんについては、肥満がリスク因子の一つとなります。

生活習慣の改善を行い、月経不順・不正出血を認めたときには放置せずに、早期の段階で産婦人科を受診することがとても大切です。

 

卵巣がんに関しては、一部の患者さんは遺伝的なリスクを持っています。

家族に乳がんや卵巣がんの罹患者がいる場合は、定期的な人間ドックなどでスクリーニングをしたり、腹部の違和感など自覚症状があった時にはすぐに受診をすることを心がけることが、予防には重要です。

 

 

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