睡眠時ブラキシズムは単なる癖ではなく、放置すると歯、歯周組織、顎関節など顎口腔系のさまざまな器官の健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。そのため、睡眠時ブラキシズムに注意が必要となる症状と治療方法を理解することが重要です。
睡眠中に多少の歯ぎしりや食いしばりは誰にでもありますが、問題はその頻度と強度です。臨床的な問題になるような頻度や強度で発生するものを病的な睡眠時ブラキシズムと考えます。
例えば、以下の症状がある場合、病的な睡眠時ブラキシズムの可能性があります:
● 歯がすり減っている
● 歯が折れる
● 補綴装置に摩耗やチッピングが起こる
● 朝起きたときに顎が痛む
● 朝起きたときに口が開かない・開きにくい
これらの症状があると、睡眠時ブラキシズムの頻度や強度が高く、顎や歯に過度な負担がかかっている可能性が高いです。逆に、こうした症状がなければ生理的な範囲に収まっていると言えますが、将来的に病的になる可能性もあるため油断は禁物です。
また、子供の睡眠時ブラキシズムは成長過程で一時的に見られることが多いですが、歯が割れたり歯髄が露出するなどの問題がある場合は、治療が必要です。
睡眠時ブラキシズムがあると、歯だけでなく、歯周組織や顎関節にも悪影響を与えます。もたらされる主な弊害は以下の通りです:
● 歯自体への影響:歯のすり減り(咬耗)や歯根破折など、最悪の場合は抜歯に至る
● 歯周組織への影響:歯周病の悪化やインプラントのオッセオインテグレーション(骨とインプラントの結合)が妨げられる
● 咀嚼筋・顎関節への影響:朝起きる時に顎の筋肉の疲労感が強い、クリッキング(関節の雑音)やロック(口が開かない)が発生する
● 補綴装置への影響:クラウンの摩耗やセラミックスのチッピング(欠け)など
● 日常生活への影響:一緒に寝る人が歯ぎしりの音で眠れないなど
これらの症状が認められる場合は、早めに歯科医師に相談することが重要です。
睡眠時ブラキシズムの治療方法として最も一般的なのがマウスピース治療です。
保険適用されているため費用面でも負担が少なく、多くの患者に適用されています。マウスピースは、歯を保護し、力の集中を防ぐ役割を果たします。また、短期的に睡眠時ブラキシズムを抑制する効果があります。しかし、この抑制効果は使用を続けていると3〜4週間後には消失します。つまり、マウスピースは睡眠時ブラキシズムそのものを止めるのではなく、歯へのダメージなどの悪い影響を最小限に抑えるための手段だと言えます。
それ以外には、薬物療法やボトックス治療などもあります。
例えば、薬物療法では、クロニジンという高血圧の薬がブラキシズムを抑制することが報告されています。しかし,あくまで研究段階での報告であり睡眠時ブラキシズムに対してクロニジンを処方することはできません。
また、ボトックス注射という自費治療も選択肢の一つです。ボトックスは筋肉の働きを弱める効果がありますが、その効果は約3ヶ月程度しか持続しません。また、ボトックス注射は睡眠時ブラキシズムの頻度自体を減少させるわけではありません。
現時点では、睡眠時ブラキシズムに対する治療は基本的に根治する方法ではなく、いずれも症状を弱めて悪い影響を軽減する対症治療となります。
①専門的な検査機器の有無
睡眠時ブラキシズムの臨床診断は、一般に問診と口腔内検査によって行われます。具体的には、起床時に顎や歯の痛みはないか、歯の咬耗や破折、補綴装置の損傷の有無など、睡眠時ブラキシズムによる起こされた症状を基に診断されます。
近年、小型で携帯型の筋電図が開発され、これを用いて睡眠中の閉口筋活動を検査できるようになり、このデータを用いてより正確な診断が可能になりました。この検査は「睡眠時⻭科筋電図検査」という項目で保険収載されています。
すべての歯科医院でこうした検査が可能なわけではありませんが、これらの機器を備えている歯科医院では、より正確な診断が可能であり、適切な治療計画を立てることができると言えます。
②補綴歯科専門医が在籍
補綴歯科専門医は、歯の欠損を補う入れ歯、クラウンやブリッジ、インプラントなどの補綴歯科治療を専門としています。この専門医の資格を取るための要件にブラキシズムの治療の経験が含まれています。
補綴歯科専門医制度は、日本歯科専門医機構理事会で広告可能とされている歯科の専門領域として認定されていますので、インターネット上でも情報を確認できます。
ブラキシズムの治療は、適切な診断と専門的な治療が鍵となります。睡眠時ブラキシズムを専門とした歯科医師を見つけることは容易ではありませんが、上記のポイントが参考になるかも知れません。歯を含めた顎口腔系の健康を維持するために、疑わしい症状がある場合は、早めに専門の歯科医師に相談することをおすすめします。
睡眠時ブラキシズムは思っている以上に多くの問題の原因になります。例えば、歯が折れる、顎の痛みなどがその例です。これらの問題を防ぐためには、早めの対応が必要です。歯が折れてから対処しようとしても、既に遅い場合があります。健全な歯が残っているうちにマウスピースを使うことで、問題の悪化を防ぐことができます。早めに手を打ち、適切な対策を講じることが大切です。