リンパ浮腫は原発性※1と続発性※2の2つに大別されます。
続発性は、がんを切除したときに転移や再発を防ぐためにリンパ節郭清※3をしたことにより、術後の手と足にリンパ液が溜まり腫れることをいいます。
つまり手術によりリンパ節が取られたことにより、リンパの流れに障害が起こり心臓からもっとも遠い手と足に発病するのです。
また日本では原発性よりも続発性の方がはるかに多く、そのなかでも一番多いのが子宮がんの術後になります。
原発性の原因ははっきりとはわかっていませんが、子供や思春期の頃に突然起こる手と足の腫れのことで、それから20代と40代でも発症のピークをむかえるリンパ浮腫であります。
※1原発性:発病する原因がその臓器にあること。また最初に発症する部位であること。
※2続発性:最初にある疾患が発病することにより、別の疾患が発病してくること
※3リンパ節郭清:リンパ節郭清に使われている郭清とは、害になるものをすっかり取り除くという意味になります。つまりがん細胞がリンパ節を通って広がっていく性質をもっていることから、転移による再発を防ぐ目的で害になるリンパ節を取り除くことをいいます。
リンパ節郭清後の続発性リンパ浮腫は、発病するとどんどん進行するのでリンパ液の流れが悪くなり筋肉細胞が破壊されていきます。
このようなリンパ浮腫には、足の指の間に蛍光色素※4を注射するICG蛍光検査法を実施します。
この検査では、注射した蛍光色素が足のリンパ管に入り5〜10分で足の付け根まで流れることにより、溜まったリンパ液が赤外線カメラ用のモニターに映し出すことができることから、手や足のどこにリンパ浮腫が発症しているか観察することができます。
またICG蛍光検査法では、患者さんが違和感を訴えるだけの目で見てもほとんど腫れていないリンパ浮腫でも、ICGの蛍光リンパ管造影による蛍光色素が足の付け根まで流れるため、リンパ液の溜まったところを見逃さないと考えられています。
これは、ICG蛍光検査法がリンパ浮腫のはじまり、つまり早期発見ができることにつながっています。
※4蛍光色素:ICG蛍光検査法に使用される造影剤のことをインドシアニングリーン(ICG)と呼び、製剤名はジアグノグリーンであります。乳がんのリンパ節転移を検査するときの造影剤で、重篤な副作用としてアナフィラキシーショックがあります。
そもそもリンパ管を流れるリンパ液は、身体のなかで独立をしておりダイレクトに足から心臓まで戻る仕組みになっています。これはリンパの流れに障害が生じると、リンパ液が途中にある静脈へ逃げることができない機能になっていることです。
そこでリンパ浮腫を治療するために、静脈とリンパ管の間にバイパスを作る手術が確立さしたのです。
リンパ浮腫のバイパス手術は、顕微鏡を見ながら血管とリンパ管をつなげる術式で超微小管吻合術(リンパ管静脈吻合術)と呼ばれ、世界のなかでも日本が一番進んでいる術式になります。
リンパ管静脈吻合術は、局所麻酔で皮膚を2〜3cm切開し0.3mmのリンパ管と細い静脈をつなぎ合わせる手術です。この手術は非常に低侵襲でリンパ浮腫の軽症から重症までの患者さんに実施されています。
またリンパ管静脈吻合術は大きな手術でないことから、日本の技術がどんどん世界中に普及されています。
現在、リンパ管と静脈をつなげるバイパス術を実施すると感染に対する免疫が非常に良くなることがわかってきました。
それはまだ症例数が少ないけれども、抗がん剤よりもはるかに強い抗がん免疫作用の存在が考えられています。
将来的にリンパ浮腫の治療で確立されたリンパ管静脈吻合術は、がん治療の1つになることが期待されています。