耳科手術の変遷・ミクロな構造を治療可能にしたブレイクスルーとは?

耳は、聴力を担う他、平衡感覚といった、人間が正常に運動を行うために必要な機能も受け持っています。私たちが生きていく上で必要不可欠な能力を担っていますが、その解剖構造は非常に微細かつ緻密であり、耳に生じた病態は検査も治療も、肉眼では行うことは困難です。 今回は耳の構造の基本的な知識と、耳科手術の変遷などについて、山形大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・教授の欠畑 誠治先生に教えていただきました。

 

耳の構造について:空気の振動を次々に変換して脳へと伝える

 

 

音は空気の疎密波で、その音が耳の中に入って鼓膜を振動させます。

 

鼓膜の後ろ(中耳)には小さな骨(耳小骨)があります。

それぞれ外側から「ツチ骨」「キヌタ骨」「アブミ骨」と呼びます。

これらの骨が順番に振動することで、空気の振動が固体の振動に変わります。

 

固体の振動を感じる場所は、中耳のさらに奥の内耳にあり、そこでは固体の振動が液体の振動に変換されます。

これによって有毛細胞が振動し、その刺激を脳へ伝える、という非常に緻密かつ精緻な伝達形式です。

 

耳の構造

 

 

耳科手術の変遷:肉眼から顕微鏡へ、そして内視鏡の登場

 

 

耳科の手術で特に対象となっているのは、「伝音難聴」と言われる難聴で、鼓膜・耳小骨といった中耳に関する疾患です。

 

耳の手術は、19世紀末から「命を守るための手術」として発展してきました。

大きなブレイクスルーとなったのは、1950年代に顕微鏡を用いた耳の手術が可能になったことです。

「ものを可視化して拡大視できる」という新しい機械の登場によって、耳科手術は飛躍的に進歩しました。

 

耳科手術の変遷

 

耳の中には、顔面神経といった頭頸部の重要な神経も走っています。

顕微鏡のない時代には、骨を削っているつもりで顔面神経を傷つけている、という事故が起こることもありました。

マイクロ単位で手術が可能になった今では、そのような事故は大幅に減りました。

 

しかし、耳科手術においては顕微鏡が最も有効な手段であると分かった後、つまり1950年代から50、60年経過しても、術式には変化がほとんどありませんでした。

他の分野では手術方法が次々と変遷していく中で、これは非常に稀な現象とい言えるでしょう。

 

1990年代に現れたのが内視鏡手術です。

さらに2000年に入ると、フルHDや4Kの内視鏡も開発され、より精細な手術が可能となりました。

 

内視鏡手術は、精緻な作業ができるという他に、耳の穴(外耳道)からの手術が可能となったことが大きなメリットの一つとして挙げられます。

中耳の疾患は主に鼓膜とその周辺に病変が位置します。

したがって、外耳道から進んでいけば鼓膜があるので、最短のルートで病変に到達することができます。

今までの顕微鏡手術では、耳の後ろを大きく切開して骨を削ってアプローチするのが主な方法でした。

この点においては、外耳道からアプローチ可能な内視鏡は、耳科手術における一つのパラダイムシフトを起こしたと考えられます。

 

内視鏡手術の様子

 

患者さんの負担をできるだけゼロに近づけるような手術を考えることは、医療の責務です。

そのような思いから、山形大学では、内視鏡手術を開発して改良し続けています。

 

 

 

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