ライソゾーム病の診断は、新生児のかかとから少量の血液をろ紙に染みこませて採取し、ライソゾームのはたらきに関わる酵素の機能活性を評価する酵素診断が主流です。
新生児期にライソゾーム病を発見し、早期治療を実現するための新生児スクリーニングも現在少しずつ広まりつつあります。
さらに、ライソゾーム病の患者さんを拾い上げるためのハイリスクスクリーニングも普及しつつあります。
たとえば、心臓が悪い患者さんは、一般の健常人よりも、ムコ多糖症あるいはファブリー病の患者さんが含まれている可能性が高いことが知られています。
そのため、心臓の悪い患者さんを選んで集中的にろ紙血による酵素スクリーニングをおこなうことで、ムコ多糖症あるいはファブリー病の患者さんをより少ない労力で効率的に診断できるようになることが期待されています。
歴史的にみて、古くから実施されてきたムコ多糖症の治療は骨髄幹細胞治療です。
主にムコ多糖症のⅠ型・Ⅱ型の患者さんにおいて行われてきました。
しかしながら、他人の骨髄を移植する骨髄移植にはさまざまな拒絶反応で引き起こされる副作用や死亡のリスクもあります。
そのため、現在ではよりリスクの少ない酵素補充療法が選択される機会が増えています。
補充された欠損酵素は細胞膜に発現しているマンノース-6-リン酸レセプターという受容体を介して細胞内へ取り込まれライソゾーム内へ輸送されます。
患者さんによって補充される酵素は異なり、Ⅰ型はラロニダーゼ、Ⅱ型はヘラクレスなど、ムコ多糖症のタイプによって使い分けられます。
一週間に一回の静脈注射で欠損酵素を補充することで、ライソゾームの中に溜まっているムコ多糖の分解が促され、臓器がキレイになります。
従来行われてきた酵素療法には、投与された酵素が血液脳関門(BBB:Blood Brain Barrier)を通過できないため、脳内へ移行できないという問題点がありました。
そこで、2021年からムコ多糖症の中枢神経合併症を治療する目的で、2種類の新規治療法が承認されました。
1.酵素の直接髄注療法:Huntalase+Elaprase
早期のムコ多糖症Ⅱ型患者さんにおいて、脳室内へ埋め込んだリザーバーを使って、毎月一回、直接脳内へ酵素を投与することで知能障害の予防効果が期待されています。
2.BBB通過型酵素補充療法:anti-transferrin receptor antibody binding enzyme
従来の酵素に受容体の抗体を結合させることによって、BBBを通過できる酵素を作成する方法です。
補充された酵素はBBBを通過した後、中枢神経にとどまり脳内に蓄積した物質の分解を促します。
一般の酵素補充療法と同じく、本治療も一週間に一回の静脈注射によって脳障害の予防効果が得られます。
上記の酵素補充以外にも、病気の根本的な原因である酵素欠損に対する治療として、現在、遺伝子治療の研究が進められています。
具体的には、酵素の合成にかかわる正常な遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルスベクターを脳の中に注射する方法や、患者さんから採取した骨髄に正常遺伝子をレンチウイルスベクターで導入して患者さんに戻すという方法が開発されています。
現在、治験が進行中で詳細なデータは公表されていませんが、このような新しい治療の開発が精力的に展開されています。