胎児大動脈弁形成術を用いた重症大動脈弁狭窄症の治療

先天性の重症大動脈弁狭窄症に対して、胎児期に治療を行う、胎児大動脈弁形成術。 国立成育医療研究センターで、第1症例目の手術が成功しました。 今回は、先天性の重症大動脈弁狭窄症に対する胎児治療について、国立成育医療研究センター副院長であり、周産期・母性診療センターのセンター長でもある、左合 治彦先生にお話を伺いました。

 

国内で初めて行われた、胎児大動脈弁形成術とは?

 

 

「胎児大動脈弁形成術」は、妊婦さんの腹部から子宮内にいる胎児の心臓の左心室まで針とガイドワイヤーを通し、ガイドに沿ってカテーテルを入れ、狭くなった大動脈弁をバルーンで膨らませる手術です。

胎児の心臓は、大人の親指ほどの大きさです。

妊婦さんのお腹の外から胎児の小さい心臓を目指して針を刺す難しい手術であり、心停止出血などの合併症を引き起こす可能性があります。

約1割が手術中に心停止を起こし、手術をうまく乗り越えられるのは7~8割手術が成功し左心室が正常に機能するのは3~4割であると言われています。

 

国立成育医療研究センターにおいて日本で初めて胎児大動脈弁形成術が行われた症例では、術中合併症なく手術を終え、その後無事出生され、生後の経過も良好だと左合先生は仰います。

重症大動脈弁狭窄症は胎児治療のみで完治するわけではないため、心臓が問題なく機能しているかどうか、今後も経過観察を続けることが必須です。

 

 

胎児期に手術を行うメリットとは?

 

 

重症大動脈弁狭窄症に対する出生後の外科的治療としてはフォンタン手術がありますが、出生後は既に器質的に心機能が低下していることに加え、手術によって心不全や不整脈などの重篤な合併症を生じる場合があります。

治療適用があり、胎内にいるうちに大動脈弁を拡げることができれば、左心室の発育を阻害せず、正常な血液循環を維持し、生まれた後の治療を軽減することができるというメリットがあります。

 

 

手術成功を受けた今後の展望について

 

 

左合先生らは10年以上にわたり胎児大動脈弁形成術の準備をされ、2019年から臨床研究を始められました。

先天性の重症大動脈弁狭窄症自体が非常に稀であり、これまでこの手術の適用となったのは3例のみ、実際に手術が行われたのは未だ国立成育医療研究センターの1例のみです。

 

今後はさらに症例を積み重ねる必要があると左合先生は仰います。

左合先生は、胎児治療という選択肢が増えていることや、胎児に色々な疾患があっても治せる可能性があるということを、発信していくことが重要だと考えられています。

 

 

胎児治療が可能となる疾患

 

 

現在、保険適用で行える胎児治療は、以下のものなどがあります。

・双胎間輸血症候群に対するレーザー手術・胎児胸水に対するシャント術・無心体双胎に対するラジオ波凝固術・胎児貧血に対する胎児輸血

これらはどれも超音波検査で診断されます。

 

その他、今回の先天性心疾患や、先天性横隔ヘルニアに対する胎児鏡下気管閉塞術脊髄髄膜瘤に対する手術、下部尿路閉塞に対する手術なども、胎児治療の適用や臨床研究が進められています。 

 

 

参考:先天性の重症大動脈弁狭窄症に対して国内初の胎児治療を実施 ~本臨床試験が進むことで、今後の治療法の確立に期待~ | 国立成育医療研究センター (ncchd.go.jp)

 

 

 

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