股関節がなんらかの原因で壊れてしまったときに、代わりに人工の股関節を入れるのが、「人工股関節置換術」です。
「変形性股関節症」と診断され、その末期状態になったときに行われます。
つまり、股関節が壊れてしまったときのあくまでも最終手段です。
関節が壊れてしまう原因はいろいろありますが、日本人でいちばん多いのは「寛骨臼形成不全症」です。
生まれつき股関節の骨盤側が小さく、小さい受け皿で体重を支えなければならないために負担がかかり、非常に不安定な関節になってしまうというもの。
こうした状態だと脱臼しやすく、また、脱臼はしなくとも30代、40代になると痛みが出やすく、50代、60代で末期の変形性股関節症になり股関節が壊れてしまうことがあります。
そのほか、「大腿骨頭壊死」(血流が低下し太ももの付け根部分の骨の一部が壊死してしまうこと)や骨折などから人工股関節に至ることもありますが、8~9割は、寛骨臼形成不全症が原因です。
変形性股関節症の診断を行うには、まずレントゲン撮影を行います。
「変形性関節症」は、名前のとおり、いろいろな骨の変形がみられるため、手術が必要な段階になると、より詳しく骨の状態を把握しなければなりません。そのためCT検査を行います。
とくに3D-CTで撮影すると、立体的に股関節を観察することができます。
そして入院翌日に手術を行い、その翌日から少しずつ歩行訓練をはじめて、術後10日くらいで退院するのが、一般的なパターンです。
先ほど、人工股関節置換術は最終手段であると述べました。
原因である「寛骨臼形成不全症」をより早く見つけられれば、進行を防ぎ、人工股関節を回避することも可能です。
骨盤が小さいと、大腿骨の頭をしっかりカバーできず、関節が不安定になってしまうのですが、骨盤を切ることではみ出た骨頭をカバーすることができるのです。これを「骨盤骨切り術」と言います。
初期に見つけて、こうした治療を行うことで、進行を防ぐことが可能です。
「人工の股関節を入れる」と聞くと「怖い」と思われるかもしれませんが、非常に満足度の高い手術です。
痛みがなくなるのはもちろん、それまでは足を引きずったり、体を揺らしながら歩いていた方も健康な方と同じように歩けるようになり、「歩き方が変わった」と喜ばれる患者さんは多いのです。
また、「人工股関節が何年もつのか」、気になる方も多いでしょう。
人工股関節の耐久性は、以前に比べてずいぶん良くなりました。
動かすときに擦り合う面で出る摩耗粉が、まわりの骨に悪影響を及ぼし、骨を溶かしてしまうことがあるのですが、逆に、擦り合う面で粉が出にくくなれば人工股関節が長持ちすることがわかってきました。
そこで、特殊な加工を施した人工股関節が登場し、より硬く、粉が出にくくなり、人工股関節の耐久性が上がっています。
その結果、「何年」とは言いづらいのですが、30年程度はもつようになってきました。
ただし、人工股関節は異物ですので、体のなかに入ったときに1%以下の確率ですが感染症が起こることがあります。
一旦感染症を起こすと、一度人工股関節を取り除いて、新たな人工股関節を入れ直さなければいけません。
そこで感染症を防ぐために、人工股関節の表面に「ハイドロキシアパタイト」という骨の成分と銀をコーティングしたものを開発しました。
表面に抗菌素材を付与させた、世界初の人工股関節です。
現在のところ、これを使い始めてから当院で感染症を起こしたことはありません。
感染症予防に効果があるものと思っています。