悪性胸膜中皮腫の化学療法に用いる薬は、第一選択としてシスプラチンまたはカルボプラチンと、ペメトレキセドが挙げられます。
これは日本のみならず、世界で共通の治療法です。
術前・術後のどちらに化学療法を行うかの判断については、慎重に行う必要があります。
手術前の化学療法中に病状が進行することで手術の機会を失う患者さんが2~3割程度存在し、術前化学療法が手術へ悪影響を及ぼす場合もあるため、岡部先生は術後化学療法を推奨しているということです。
この辺りの判断や選択は主治医とよく相談した上で決めるべき点でしょう。
悪性胸膜中皮腫の治療では、中皮腫そのものの治療の他、再発防止の目的で、放射線療法を行うことがあります。これは放射線治療医によって行われます。
悪性胸膜中皮腫の外科治療である「胸膜外肺全摘術(EPP)」では片側の肺を全部摘出します。これによって、病変がある方の胸郭全体に対して放射線療法が可能となります。
一方、もう1つの外科治療の方法である「胸膜切除剥皮術(P/D)」は臓側胸膜・壁側胸膜を切除する手術ですが、横隔膜と心膜は必要に応じて切除・再建します。
全摘出ではないため、この場合の放射線療法についてはまだ研究途上です。
山口宇部医療センターでのEPPやP/Dの治療成績は、2019年1月までの12年7ヶ月間に実施したEPP58例を対象として見ると、IMIG分類による術後のステージはⅣ期が6例、Ⅲ期が31例、Ⅱ期が13例、ⅠB期が8例であり、放射線療法は49人(84%)に照射、化学療法は58人中45人(78%)に実施し、2019年7月現在、待機が2人とのことです。
山口宇部医療センターでは、多くの進行例に対して手術を実施していますが、悪性胸膜中皮腫58例のうち5年生存率は27%、生存期間中央値は30ヶ月となっています。
また、2011年以降に実施した上皮型29例のみを見ると、5年生存率は43%、生存期間中央値が59ヶ月で予後が著名に改善していることが分かります。
次にP/Dの治療成績を見てみましょう。
上皮型・二相型の悪性胸膜中皮腫に対するP/Dの23例を対象として見ると、IMIG分類による術後のステージはⅢ期が9例、Ⅱ期が9例、ⅠB期が4例、化学療法を20例に行なっています。
術後観察期間中央値は2年6ヶ月、13例は原病死となっています。
死亡された方の生存期間中央値は1年11ヶ月で、10ヶ月から3年の間に亡くなられています。
また、1年以内に亡くなられた方は1例のみ(術後10.5ヶ月)です。
悪性胸膜中皮腫の診断や治療方針の決定、またそこから治療へと進めていくには、豊富な経験と知識、確かな技術が必要です。
また、セカンドオピニオンや、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」などの患者会を利用して、労災補償や石綿新法(石綿健康被害救済法)などで救済措置が得られるかどうかも調べてみましょう。
治療に入るにあたっては、このような申請に協力的な病院を受診することが望ましいと考えられます。