公益財団法人 日本心臓財団のホームページには、大動脈弁狭窄症のうち手術を受けた方は1%程度というデータが示されています。
弁膜症だということに患者さん本人が気付いておらず、受診・診断に結びつかないまま、具合が悪くなったり亡くなってしまったりする症例が多いと言われているのです。
大動脈弁狭窄症がどのように見つかるかという大門先生の研究結果では、4割程度の患者さんは症状が出てから受診していることが分かっています。
弁膜症は無症状のまま進行し、症状が現れる段階では既に重症度が高くなっていると言われているため、手術など適切な治療を適切なタイミングで受けられるようにするためには、症状が出る前に他の所見で見つけられることが望ましいと考えられています。
脚のむくみ・息切れ・胸の痛み・めまいといった症状が思い当たる場合には、弁膜症が進行しているかもしれないため、早期受診が勧められます。
他覚的所見で紹介受診に繋がった患者さんのうち、6割は医師の聴診により心雑音が見つかっています。
弁膜症の診断において聴診はとても重要な方法であるため、診察の際には医師にしっかりと胸の音を聞いてもらうことが必要です。
最初に行うのは、心エコー図という検査です。
超音波を使って、体表面から心臓の動きや血液逆流の有無を確認し、弁膜症の重症度を判断することができます。
検査は大体30分程度で終了します。
超音波専門医や心エコー図専門医がいる施設では、より精度の高い診断を受けることができるでしょう。
軽症、あるいは中等症であればすぐに手術する必要はなく、経過観察となります。
重症の場合には、現段階では無症状でも、このまま手術しなければ心機能が低下していってしまう可能性があるため、外科的治療や内科的治療を選択肢に含めて治療方針を決定する必要があります。
病院によっては、心臓血管外科医や循環器内科医、看護師や薬剤師など、治療に関わる多職種スタッフをメンバーとするチームでカンファレンスを行い、治療方針を決定する場合もあります。
弁膜症の外科的治療は、大きく分けて2種類の方法があります。
一つ目は、うまく開閉できなくなっている自己の弁を、縫ったり支えたりして修正する弁形成術という方法です。
特に僧帽弁閉鎖不全症で多く用いられます。
二つ目は、自己の弁を人工的な弁と入れ替える弁置換術という方法です。
弁の変性が進んでいる場合などは形成術を選択することは難しく、置換術が適応となります。
弁置換術で入れ替える弁は、チタンやカーボンで作られた機械弁と、豚や牛の心臓から作られた生体弁の2種類から選ばれます。
機械弁は原則的に再手術が不要で、一度手術してしまえば取り替える必要がなく、若い方で多く選択されます。
しかし、術後はワーファリンという血液をさらさらにする薬を一生涯服用しなければなりません。
一方、生体弁はワーファリンを服用する必要はありませんが、弁自体が5〜15年で劣化するため、再手術が必要になることがあります。
高齢の方で多く選択されます。
どちらの弁を選択するかは、患者さんの年齢や生活スタイルに合わせて変えることができるため、担当医と相談して決めるのがよいでしょう。
近年、高齢の方の大動脈弁狭窄症ではカテーテル治療が選択される症例も多くなってきています。
胸を開けずに足の動脈からカテーテルを入れて人工弁置換術を行うという方法で、手術による侵襲が少ないのがメリットです。
僧帽弁閉鎖不全症でも適応となる場合があります。
ただし、カテーテル治療の効果は外科的治療と比べ確実性が落ちるため、注意が必要です。
場合によっては内科的治療を行うこともありますが、弁膜症は基本的には薬では元に戻らないため、適応次第では外科的治療あるいはカテーテル治療を受ける必要があるでしょう。