弁置換術で、チタンやカーボンなどによって人工的に作られた機械弁を選択した場合には、血液凝固を防ぐためのワーファリンという薬を術後一生涯飲み続けなければなりません。
この薬は、妊婦が服用すると胎児に対し催奇形性があると言われています。
そのため、今後妊娠・出産を希望される年代では、まずは生体弁置換術を行い、子どもが生まれたあとに機械弁へ切り替えるための手術を行う方もいます。
他にも身体が激しくぶつかる可能性のあるスポーツ選手や、高所作業がある仕事に就いている方など、怪我による出血のリスクが高い方は、ワーファリンの作用により出血が止まらない場合に危険なため、まずは生体弁を選択し、引退された後に機械弁に替える場合もあります。
選択する弁の種類は、ライフスタイル・職業に応じて切り替えることができるため、要相談です。
弁膜症の手術に限ったことではありませんが、どのような治療にも一定の合併症や副作用のリスクがあります。
手術をするメリットとデメリットを天秤にかけ、メリットがデメリットを、利益がリスクを上回る場合に治療適応となりますが、そのバランスが非常に重要となるのです。
現在は、インターネットなどで治療の詳細やリスクなどについて簡単に調べることができます。
医療者に勧められ任せきりになるのではなく、自分や家族が納得して手術を受けることができるように、ある程度の情報は調べておき、判断できるような準備をしておくことが大切です。
患者さんが治療にあたり、インターネットでの情報収集や医師への相談を通して事前に知っておくべきポイントは、以下の4つです。
1.自分の弁膜症がいまどの程度の重症度なのか、どのような病態なのか 治療を受けなかった場合に、今後の生活や余命にどのような影響が出るのか。2.治療選択肢、それぞれの利点・不利益 1を踏まえて、自分に適した治療はどれなのか。3.合併症のリスク 治療による合併症にはどのようなものがあるのか、どの程度の危険度なのか。4.術後の影響 飲み薬や、仕事・趣味など、術後の生活にどのような影響があるのか。
弁膜症で自覚する症状として、最初は息切れ・足のむくみ・胸の痛み・めまいなどが現れるため、大した事ないだろうと自己判断せず、思い当たる症状があれば早めに循環器専門医を受診しましょう。
高血圧などで定期的に病院を受診している方であれば、その都度、診察の際に医師から聴診をしてもらうと、症状が出る前に早期発見できる可能性が高くなります。
弁膜症の診断・治療のために受診する医療機関に迷った時には、カテーテル・画像診断・外科など、それぞれの専門医が揃ったチーム力のある施設であるということが一つのポイントです。
加えて、患者さんにとってどの治療法が一番よいのか説明を尽くし、患者さん自身の希望も考慮してくれたり、手術またはカテーテル治療の適応がなくても、その後適切にフォローしてくれる施設が望ましいでしょう。