小児の新型コロナウイルス感染症:ワクチン接種の必要性

RSウイルスなどの季節性感染症と比較すると、新型コロナウイルスの重症化例は非常に少なく、治療では一般的な呼吸器感染症で行われるような治療管理を行います。 現在、新型コロナウイルスのワクチンは12歳以上が対象ですが、近日5歳以上から接種可能になることが報じられています。 ワクチン接種の「メリット・デメリット」を長崎大学病院 小児科 教授 森内 浩幸先生に詳しく解説していただきました。

 

長崎県での小児の新型コロナウイルス感染症の罹患状況

 

 

当院(長崎大学病院)で今年流行したRSウイルスのために重症化した子供の数は、新型コロナウイルス感染症で重症化した日本全国の患者総数よりもずっと多いです。

毎年のように流行しているRSウイルスやインフルエンザの方が圧倒的に重症化するため、さまざまな治療が必要となります。

その意味では、現時点で新型コロナウイルス感染症の重症化の治療を過剰に心配する必要はないと思います。

 

新型コロナウイルス感染症のほとんどは、どの呼吸器感染であっても行うような一般的な治療管理です。

治療の手引きとなるプロトコルは準備してありますので、重症化した場合にはそれに則って対応し、より高度な治療が必要となった場合は、しかるべき施設へ患者さんを搬送する体制を整えています。

 

 

5歳以上の小児への接種について

 

 

今はワクチン接種の対象が12歳以上の小児に限定されていますが、おそらく2月ぐらいになると5歳以上の子供たちに対するワクチン接種が認められると思います。

基礎疾患があり、重症化のリスクがある子供達にはぜひ接種して頂きたいと思っております。

 

高頻度に発熱など副反応が見られますが、基礎疾患を持ち重症化のリスクがある子供達は、どんな理由であれ熱が出るだけで体調の悪化をきたすことが多いです。

メリットも高い反面、デメリットも出やすいという点を重々考える必要があります。

 

主治医の先生とよく相談をし、副反応への対応ができる体制を整えた上で、ぜひ接種していただきたいと思います。

 

 

小児の新型コロナウイルス感染症の致死率はインフルエンザやRSに劣る

 

 

日本では15歳未満の子供達も十数万人新型コロナウイルス感染症に罹患していますが、誰一人亡くなっていません。

 

RSウイルスやインフルエンザのように毎年流行する他のウイルス感染症においては、何十人、場合によっては百数十人もの子どもたちの命が失われています。

さらに、新型コロナウイルス以外のウイルス感染症では、脳症肺炎など後遺症を残してしまう子供たちもそれ以上の数存在します。

他のウイルス感染症に比べると、新型コロナウイルス感染症が小児の健康に及ぼす悪影響はそれほど大きくありません。

そうなると、新型コロナウイルスに対するワクチンについては、十分すぎるぐらいの安全性を確保しておかなければならないだろうと思います。

 

5歳から11歳の小児においては接種量が成人の1/3と少量であることもあり、少なくとも12歳以上の年長児や20歳台以降の成人と比べると、痛みや発熱、だるさ等などの副反応は軽症で済んでいるようです。

 

 

アナフィラキシーや心筋炎について

 

 

非常に稀ではありますが、発症すると重篤な副反応としてアナフィラキシーと呼ばれる重症のアレルギー反応や心筋炎については、どうしても気がかりだと思います。

アナフィラキシーに関しては、接種会場に特効薬を注射器に入れた状態で準備されていますので、大事に至ることは滅多にありませんが、注意はしないといけないと思います。

心筋炎も非常に稀で、特に若い男性に比較的多いものではありますが、命に関わるような事例は極めて稀であると言われています。

 

そしてもう一つ大事なことは新型コロナウイルス感染症に罹患した時の方が、心筋炎を発症する確率はきわめて高いということです。

このように、ワクチン接種の是非については、有効性と副反応のリスクのバランスを取って判断しなければなりません。

 

 

ワクチン接種の決め手は、子供たちの心身に与える健康にどれだけ寄与できるか

 

 

ワクチンを接種すれば元の生活に戻れるかといえば、なかなか難しいところではあります。

新型コロナウイルス感染症が子供たちに与える直接的な身体的影響以外にも、心に与える影響など総合的に考えなければいけません。

その中でワクチンがどのくらい子供たちの心身の健康に寄与することができるか、冷静に考えた上で強く勧めるのか、希望者にはどんどん打っていくスタンスにするのか考えていく必要はあるだろうと思います。

私はリスクがある小児理由があって希望される人にはどんどん接種を進めていくべきだと思います。

 

けれども、迷っている子供や養育者に対しては、もっといろんなデータが出てきて、より安心した気持ちで接種することができるまで慌てなくてもいいかもしれません、とお伝えしたいと思います。

 

 

日米におけるワクチン接種の有用性の違い

 

 

日米の小児のCOVID-19疾病負荷の違い

 

アメリカでは新型コロナウイルスにかかった5歳から11歳ぐらいの小児の一万数千人に1人がなくなっており、これは季節性のインフルエンザよりも高い致死率になります。

同じウイルスなのになぜ人種による違いがあるのか、理由はまだよくわかってはいませんが、一つの理由はアメリカではマイノリティが多いことが挙げられます。

マイノリティの新型コロナウイルス感染症罹患者では、成人も小児も重症化する傾向があります。

さらに、アメリカは日本に比べると圧倒的に肥満児が多いことも理由の一つです。

 

また、アメリカでは新型コロナウイルス感染症によって小児多系統炎症性症候群という致死的な状態に至る患児の割合が、日本に比べると圧倒的に多いことも要因として考えられます。

これはヒスパニック系やアフリカ系の小児において多く発症し、アジア系人種では非常に少ないと言われています。

実際、アメリカでは6000名近い多系統炎症性症候群を発症した患者さんがいますが、日本ではまだ10例程度にとどまっています。

 

このように、アメリカの小児に積極的にワクチン接種をすすめる議論と日本の小児に対する対応は、切り分けて考えないといけない部分があります。

 

※2021年12月末撮影

 

 

 

「小児の新型コロナウイルス感染症:ワクチン接種の必要性」に関する記事・動画

小児多系統炎症性症候群について
小児における新型コロナウイルス感染症の実態
新型コロナウィルス感染症 嗅覚障害・味覚障害について
コロナ後遺症の症状と実態

コロナ後遺症の症状と実態

大塚 文男 先生
コロナ後遺症の治療薬

コロナ後遺症の治療薬

大塚 文男 先生
本サイトの利用にあたっては、当社の定める利用規約が適用されます。利用規約はこちらからご確認ください。