小児多系統炎症性症候群は当初、川崎病に似た疾患と言われていました。
川崎病は原因不明の血管炎症候群で、元々何らかの遺伝的な背景がある方(特にこれは東アジア系の人種)が、何らかの感染症にかかることでスイッチが入って心臓を養っている冠動脈に炎症を起こしたり、全身のさまざまな血管に炎症を起こしたりする病気です。
小児多系統炎症性症候群は、主にヒスパニック系やアフリカ系の人たちの持っているような遺伝的な背景に、新型コロナウイルス感染症が引き金となって起こる病態です。
新型コロナウイルス感染症罹患後2週間から6週間ぐらい経って、さまざまな臓器に強い炎症が起こります。
川崎病は現在、治療法の進歩によって命に関わることは極めて稀ですが、小児多系統炎症性症候群は患児の約1%程度は命を落としてしまう重症化の危険が高い病態です。
川崎病は乳幼児に多い病気ですが、小児多系統炎症性症候群は10歳前後に多く、場合によっては10代後半から20代に起こった例もあり、より年長児に起こる病気です。
激しい嘔吐や下痢を伴い、ショックや心機能低下をきたすことがあるので、重症の胃腸炎や細菌によって起こる敗血症などの誤った診断を受けることがあります。
そのため、多系統炎症性症候群と診断されず、適切な治療が遅れることもありますので、直ちにかかりつけの先生に相談したり、状況によって救急搬送を依頼したり、しっかりと対応していく必要があります。
さらに、診療にあたる医師達に対しても、私達専門家がしっかり啓発をして、疾患の認知度を向上させていくことも重要だと考えています。
心臓の働きが弱っている場合もありますので、心肺機能をサポートするような全身管理と合わせて、免疫グロブリンやステロイドなど適切な治療へ繋げていく必要があります。
新型コロナウイルス感染症の流行初期に比べると、2%近くあった致死率が、最近のデータだと1%を切っていますので、適切な治療法が普及していけば今の致死率をさらに下げることができるようになると思います。
しかしながら、流行のピークがあまりにも高すぎると、適切な治療をすれば助かるはずの命が失われるケースはどこでも起こりえます。
その意味で、流行のピークはできるだけ下げ、短い期間で終わるようにさまざまな対応策を取るべきだと考えます。
家族を含め、小児に関わるすべての大人たちがまずはワクチン接種をちゃんと受けるということが必要です。
ウイルスが変異を重ねるにつれ、ワクチンの感染予防効果が落ちてきていることは事実です。
ワクチン未接種の状態よりは、十分に感染を予防する力は期待できますが、それのみでは対策は十分といえません。
お子さんと密に接するような時には、正しくマスクを着用すること。
不織布のマスクを隙間なくピタッとフィットさせるような形で対応していただくことが必要となってきます。
オミクロン株では、さらに空気感染しやすくなっており、部屋の換気に務めるなどこれまでの対策をより徹底して行うということが重要です。
自分でマスクの着け外しができないような年少児や障害のある小児では、窒息や誤嚥を避けるため、保護者の方が十分に見守りをしてあげてください。
そして、三密を避けたり、さまざまな行動を制限したりすることが、子供の心の健康に与える影響は非常に大きいものがあります。
感染対策と子供の心の健康とのバランスをとっていく必要があると思います。
医学的に必要以上の制限をする必要はありません。
何より、子供達にとっての新型コロナウイルス感染症の一番大きな影響は心の健康に与えるものであって、身体の健康は普通の風邪と大きな違いはないことをしっかりと受け止めた上で、迷われたら必ずかかりつけの先生に相談して頂きたいと思います。
※2021年12月末撮影