左心不全に「左心室の動き(左室駆出率)が正常な心不全(HFpEF)」と「左心室の動き(左室駆出率)が悪い心不全(HFrEF)」があります。
左心室の動きが保たれた心不全(HFpEF)は、収縮する力は保たれているにも関わらず、左心室が硬くて広がりにくくなっているため、全身を回った血液が心臓へ戻りにくくなる状態です。この場合、体内に血液が溜まってしまい、むくみ(浮腫)などの症状が起こりやすくなります。
HFpEFは2021年まで治療薬が全くなく、治療が非常に難しいタイプでした。しかし近年、治療薬が開発され、進化を遂げています。
その一つは、ダパグリフロジン、エンパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬です。もともとは糖尿病の治療薬であり、血糖を尿とともに排出する作用があります。この薬によってHFpEF患者さんの心不全による入院を抑制したというデータが報告されており、ヨーロッパでは心不全の治療薬として推奨されている薬です。
その他、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)やARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)という降圧剤を組み合わせて、それぞれの患者さんにあう薬物療法を行います。
また、心不全の悪化を防ぐためには、運動療法や栄養指導を行いトータルマネジメントすることが重要です。
HFpEFの予後については、1度入院した人が1年後に心不全で再入院する確率は約25%、日本におけるHFpEFの死亡率も約20%であり、非常に多いのが現状です。
ただし、これらのデータはSGLT2阻害薬やARNIなどの治療薬が開発される前の数値であり、現在は予後が改善していると考えます。今後も新しい治療薬が開発され、生命予後は改善することが期待されます。
心不全の予防はとても重要です。
特にHFpEFのリスクとなる高血圧・糖尿病・慢性腎臓病を早めに治療しておくことは、心不全の発症を予防することに役立ちます。
また、適度な運動、減塩食などを普段から心掛け、早めに対策しておきましょう。
群馬大学医学部附属病院では、前橋市医師会の協力を得て、心不全を早期発見するプロジェクトを実施しています。
地域にある医院でスクリーニングを行い、心不全が疑われた場合は同院へ紹介いただきます。
心不全は一般的な検査では診断できないことが多く、同院では早期発見するために運動負荷心エコーの検査を実施。診断した後は、最初に診察を受けた医院で治療を行います。
同院では2022年3月に息切れ外来を開設しました。
主な目的は心不全を早期発見することですが、それ以外の原因疾患も調べて、息切れを少しでも和らげるように努めています。
息切れで困っている場合は、まずはかかりつけ医にご相談いただいた上で、同院へご紹介ください。