LACC trial(腹腔鏡下広汎子宮全摘術)とは、13カ国・33施設が参加した大規模な比較試験で、早期子宮頸がんに対する広汎子宮全摘術を、従来の開腹術で行うケースと腹腔鏡下・ロボット支援下(低侵襲手術)で行うケースの2つに分けて、およそ10年間に渡ってその予後を比較した試験です。
この試験によって、低侵襲手術では、骨盤内再発が多く、予後は開腹手術に比べて不良である、という結果が報告されたのです。腹腔鏡下手術、低侵襲手術のどちらのケースであっても、この試験に参加している病院施設は、ある程度それらの手術実績を持ち熟練している施設であるため、この結果は非常に重く受け止められています。
LACC trialは、非劣性試験といい、「低侵襲手術の結果は開腹手術に劣っていない」という仮説の元で行われた試験です。したがって「低侵襲手術よりも開腹手術の方が全く良い」という結果は全く予想されていなかったことであり、「低侵襲手術の方が予後が悪い」という調査項目は入っていませんでした。そのため、この報告論文だけではこの試験がどのように悪かったのかを断言することはできません。
低侵襲手術の場合、腹腔鏡下で行うため、腹部にガスを入れて膨らませ、ガスが循環している状態で手術をします。このことに加えて、子宮やリンパ節をどのように取り出すのかという点や、手術時に実際に臓器を触る、ロボットの手先(マニピュレータ)部分が子宮頸がんの腫瘍部分に接触していないかどうか(マニピュレータにがん細胞が付着することで、他の浸潤していない部分にまで転移させていないか)という点に、この報告結果の解釈のポイントがあると考えられています。
また、腹腔鏡手術の熟達には、ある程度の時間と症例数の経験が必要です。これが十分に為されていた施設での結果かどうかというのも、この報告を考える上での1つのポイントになります。
子宮頸がんと診断されて、治療方針を決めていく際には、まず手術をするかどうかを決める前に放射線治療医とも相談して、そのメリット・デメリットをよく理解した上で、手術か放射線治療かを選択します。
治療の選択権は患者にあります。患者の権利が十分に尊重された上で、主治医、放射線治療医たちとよく相談して、治療を決めていくのが望ましいでしょう。
がんと診断された最初の段階で、様々な治療の選択があることが提示されます。この時に、手術を選択したのであれば、その施設の治療成績と、LACC trialのような世界で調査されている治療の現状についても提示してもらった上で、決めていくことが重要です。
手術を行うのであれば、「”悪い部分”は全て取り切りこれで根治を目指す」という三上先生のように、ポリシーを持って患者の選択を尊重してくれる医師に任せるのが良いでしょう。