年々、すい臓がんによる死亡者数は増加しており、いま、肺がん、大腸がん、胃がんに次いで4番目に死亡者数が多いのが、すい臓がんです。
また、国立がん研究センターが公開しているデータを見ると、すい臓がんの5年生存率は全体で9.2%とよくありません。
がんのなかでも5年生存率がもっとも悪いのが、残念ながらすい臓がんなのです。
その大きな理由が、早期発見の難しさにあります。
なぜ早期発見しにくいのかと言えば、ひとつは、すい臓という臓器は胃の裏側(背中側)にあり、検査がしづらい位置にあるからです。
また、早期のすい臓がんは、自覚症状がほぼありません。
腹痛や腰痛、背中の痛み、黄疸といった自覚症状が出てから受診された方は、すでにがんが進行していて厳しい状態になっていることが多いのです。
早期で発見されるすい臓がんは、「たまたま見つかった」ケースがほとんど。
たとえば、かかりつけ医のところで受けた超音波(腹部エコー)検査で、「『膵管』という、すい臓のなかに走っている数ミリの細い管が見える」「『膵嚢胞』という袋状のものが見える」と言われて、精密検査を受けたら、すい臓がんが見つかった――といったケースです。
ところが、ほんの数ミリの管が見える・見えないといった話で、本人の自覚症状もないため、「そのまま様子を見ましょう」と言われ、精密検査につながらないこともあります。
さらに、人間ドックや健康診断で行う血液検査において、「こういう項目が高ければすい臓がんを疑う」といった有効な検査項目は見つかっていません。
このように、すい臓が体の奥にあること、症状が出にくいこと、画像検査でも血液検査でも引っかかりにくいこと――が、すい臓がんの早期発見を難しくしています。
ただ、早期に発見できれば、すい臓がんも高い5年生存率が望めます。
がんがすい臓内に留まっていて、リンパ節への転移もない場合、「ステージ1」と診断されます。
そのステージ1のすい臓がんのなかでも、がんの大きさが1cm未満であれば、5年生存率はかなり高いのです。
8割というデータもあるほどです。
ですから、すい臓がんの診療ガイドラインでも、「1cm以内で見つけることをめざしましょう」と強く言われるようになっています。
では、すい臓がんを1cm以内で見つけるにはどうすればいいのでしょうか。
私の病院のある広島県尾道市では、すい臓がんのリスク因子を複数お持ちの方に、かかりつけ医の先生や保健行政にかかわる方がお声かけをして、すい臓の検査を受けることをすすめる啓発運動を2007年から行っています。
・家族にすい臓がんを患った人がいる
・糖尿病、慢性膵炎、遺伝性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵嚢胞、肥満をもっている
・喫煙、大量飲酒といった生活習慣がある
これらが、すい臓がんのリスク因子です。
たとえば、家族にすい臓がんの方がいて、ご自身も太っていて、ヘビースモーカーであれば、3つのリスクをもっていることになります。
尾道では、かかりつけ医の先生方がこうしたリスク因子を複数もった“すい臓がんになりやすい人”にお声かけして、すい臓の検査を受けていただくことを勧めたところ、すい臓がんの5年生存率が2割にまで上がりました。
リスク因子を複数お持ちの方は、ぜひ一度、すい臓の検査を受けることをおすすめします。