肺がんは、大きく非小細胞がんと小細胞がんの2つにわけることができます。このうち非小細胞がんが肺がんの約90%を占めています。
非小細胞がんのステージⅠ〜ⅢAにおいてリンパ節転移が少ない場合は、手術の適応となり術後に化学療法を行います。
このときの手術では、がん組織をすべて切除しますが、転移の疑われるようなリンパ節がある場合は一緒に切除します。
また化学療法は、手術前にがん細胞を小さくさせるために投与される場合と術後の身体にがん細胞が残っていることを想定して投与される場合の2つの方法があります。
人間の肺は右と左に1つずつあります。肺がんは、どちらか一方の肺で発生したあと、大きくなり個数を増やしていきます。
この肺がんが、一方の肺の中だけに留まっていればリンパ節転移が少ない方に入ります。
ところが、肺と肺の間にリンパ節があるため、肺からがん細胞が一歩でも出てしまうと転移になります。
これが肺がんのステージにおけるリンパ節転移の有無であります。
このようにリンパ節転移のあるステージⅢAとⅢBの場合は、手術が適応にならないために胸部への放射線療法だけか、または抗がん剤と胸部への放射線療法の併用になります。
このときの抗がん剤の一般的な組み合わせが、CP療法(カルボプラチン※1+パクリタキセル※2)、CD療法(シスプラチン※3+ドセタキセル※4)、CV療法(シスプラチン+ビノレルビン※5)です。
※1 カルボプラチン:点滴静注、医薬品名はパラプラチン・カルボプラチン、プラチナ製剤として有名
※2 パクリタキセル:点滴静注、医薬品名はタキソール、植物アルカロイド製剤として有名
※3 シスプラチン:点滴静注・静注、医薬品名はランダ・ブリプラチン、プラチナ製剤でカルボプラチンの仲間
※4 ドセタキセル:点滴静注、医薬品名はタキソテール、植物アルカロイド製剤でパクリタキセルの仲間
※5 ビノレルビン:静注、医薬品名はナベルビン、ビンカアルカロイド製剤
肺がんが発見されたとき、すでにがん細胞がリンパ節または他臓器まで転移していると、手術が根本的治療にならず、ただ体力を衰弱させる治療になるために適応になりません。
またがん組織への放射線照射も同じような理由から適応にならないことがあります。
このような病期にあたるのがステージⅢBとⅣになります。当然、ステージⅢBとⅣに残された治療は抗がん剤になりますが、がんを根っこから治す事は難しいです。
ステージⅢBとⅣは、抗がん剤が適応となる病期です。現在、抗がん剤を含めた化学療法の開発が進化しています。その化学療法とは、遺伝子変異をターゲットにする分子標的薬とがん免疫治療薬であります。
この治療を受けるには、まず入院して頂きがん組織を取り組織型を判別します。組織診断の結果から、非小細胞がんを非扁平上皮がんと扁平上皮がんにわけます。さらに非扁平上皮がんから遺伝子変異の発現の有無を検査します。
遺伝子検査の結果、EGFR遺伝子変異が陽性の場合は、ゲフィチニブ※6、エルロチニブ※7、アファチニブ※8のいずれかの分子標的薬が有効になります。またALK融合遺伝子が陽性の場合は、アレクチニブ※9またはクリゾチニブ※10が有効になります。
※6 ゲフィチニブ:経口、医薬品名はイレッサ、EGFRチロシンキナーゼ選択的阻害剤
※7 エルロチニブ:経口、医薬品名はタルセバ、EGFRチロシンキナーゼ選択的阻害剤
※8 アファニチブ:経口、医薬品名はジオトリフ、EGFRチロシンキナーゼ選択的阻害剤
※9 アレクチニブ:経口、医薬品名はアレセンサ、ALK阻害剤
※10 クリゾチニム:経口、医薬品名はザーコリ、ALK阻害剤
現在、遺伝子変異の有無により治療効果の高い分子標的薬が開発されています。しかし肺がんの約90%を占める非扁平上皮がんと扁平上皮がんのすべての遺伝子変異を調べ、新薬開発するまでには時間がかかります。
そこで登場してきたのが免疫チェックポイント阻害剤です。
もともと人間は、がん細胞を攻撃するための免疫としてT細胞をもっています。これはがんにとって邪魔なものです。
そこでがんの表面にある手(PD—L1)がT細胞の表面にある手(PD−1)を握り、友好関係を結んでしまいます。
この手と手が握られているところを免疫チェックポイントと呼びます。この手を結ばなくするのが、免疫チェックポイント阻害剤になります。
この免疫チェックポイント阻害剤は、手術ができない非扁平上皮がんと扁平上皮がんの患者さんに新しい治療方法として使われています。
しかしがんの表面にあるPD−L1が発生していないと効果がうすくなるため、PD−L1が50%以上発生していない肺がんには免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブ※11を使用することができません。
でもペムブロリズマブは、肺がんの標準治療に比べて効果が高いことがわかっています
※11 ペムブロリズマブ:経口、医薬品名はキイトルーダ、保険適応はPD−L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
薬物療法しか選択肢のないステージⅣの患者さんは、一生抗がん剤を投与しながらがんとお付き合いして生きていくことが適切な表現になります。
現在、がんの根治ができなくても長期に生存している患者さんが非常に増えてきています。それは遺伝子治療となる分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新薬が登場しているからです。
まずはがんに罹った自分の病状をしっかり把握する事、つぎに自分がどういったステージであるかを理解することです。
そして、どこの病院で治療を受けるか、早い段階できめることが重要であります。