肺がん(※非小細胞肺がん)の治療の中でも、外科手術が第一選択肢となるのは、
です。
肺がんの手術は、ほかのがんの手術と同様、いかに体への負担を減らすかという観点から、大きく胸を切り開く開胸手術ではなく、胸腔鏡下手術が主流になっています。
さらに最近では、胸腔鏡手術が進化した、ロボット支援手術も行われるようになってきました。
現時点では、肺がんのロボット支援手術を行える施設は限られていますが、私の勤める京都大学医学部附属病院ではすでに60人ほどの肺がんの患者さんのロボット支援手術を行っています。
ステージ3の肺がんは、外科手術のみで治すことは難しくなり、放射線治療と化学療法(抗がん剤治療)が中心になります。
その場合、時には、放射線治療と化学療法でがんを小さくしてから手術を行うケースもあります。
つまり、放射線や抗がん剤でステージ3をステージ2あるいはステージ1に戻して、手術を行うのです。
以前は、肺がんの手術といえば片方の肺をすべて取り除く「片肺全摘術」が一般的でした。
しかし、片方の肺を全て摘出してしまうと、手術後の呼吸機能が大きく低下してしまいます。
そのため、今では、「肺葉切除」と言って、肺の中の小さな単位で切除するようになってきています。
肺は、右側は「上葉」「中葉」「下葉」の3つに、左側は「上葉」と「下葉」に分かれ、その肺葉単位で切除する「肺葉切除」が、現時点での肺がんの標準的な手術方法です。
ただ、1センチや2センチといった非常に小さな肺がんの場合、肺葉をまるごと取ってしまうのももったいない。
そこで、もっと小さく切ってもがんが治るのではないかとの考えで開発されたのが、「区域切除」「部分切除」といった方法です。
ただし、小さく取れば、その分、切除ラインががんに近づき、再発率が上がる懸念が出てきます。
そのため、区域切除や部分切除といった、肺の中で小さい部分のみを切除する手術を選ぶ際は、がんの根治性と残される呼吸機能を天秤にかけて決める必要があります。
切除範囲をなるべく小さくする手術が増えてきている一方で、がんの広がり方によっては、どうしても片方の肺を丸ごと取らなければいけないケースもあります。
そういったケースで、一旦片方の肺を取り出して、体外でがんを切除する手術を行い、がんがない部分のみを患者さんの体内に戻す「自家肺移植」という手術方法も、近年試されてきています。
体の外でがんの手術を行うというのは、不思議に思うかもしれません。
なぜこんなことが可能なのかと言えば、肺の移植の技術を使っているからです。
肺がんの自家肺移植では、片方の肺を取り出した後、機能を維持したまま安全に保存できるように保存処理を施し、その上でがんを取り除く手術を行います。
そして、病理診断でがんが残っていないことをしっかり確認してから、生体肺移植の技術を用いて残りの肺を患者さんの体内に戻します。
肺の保存処理を行っているので、病理診断にも十分な時間をかけることができ、より安全な手術が可能になるのです。
誤解してもらうと困るのが、これは一般的な肺移植ではありません。
「肺の移植の技術を使った、肺がんの手術」と理解してもらうとよいと思います。
この手術は、非常にまれな方法で、ごく限られた病院でしか行われていません。
しかし、今までは片肺を全て摘出しなければならなかった症例でも、肺の機能を残すことが出来る可能性があるということで、注目をされてきています。