肺がんの手術では、肺を小さく切り取る「縮小手術」が増えていますが、そのほか、傷を小さくする試みも進んでいます。
以前は、胸を30センチほど切り開いて、直接見ながらがんを取り除く「開胸手術」が行われていましたが、いまではほとんどが胸腔鏡(先端に小型カメラが装着された器械)を使って行われるようになりました。
胸腔鏡手術(video-assisted thoracic surgery:VATS(バッツ))では、数センチの小さな穴を2カ所ほどあけて、そこから胸腔鏡と手術器具を挿入し、カメラで映した映像をモニターで見ながら手術を行います。
傷が小さくてすみ、また、開胸手術のように肋骨や筋肉を切る必要がないので、体にやさしい手術です。
私たちの病院では、100例中99例の肺がん手術を、胸腔鏡手術で行っています。
胸腔鏡手術(VATS、バッツ)には、「完全胸腔鏡下手術」といってモニターのみを見て行う方法と、胸腔鏡も使いながら直接肉眼でも見る「ハイブリッドバッツ(ハイブリッド胸腔鏡手術、胸腔鏡併用手術)」があります。
私が主に行っているのは、ハイブリッドバッツのほうです。
これは、胸腔鏡手術と開胸手術の両方の良さをいかそうという考えから生まれました。
というのは、胸腔鏡手術ではモニターを見ながら行いますが、モニターに映し出されるのは二次元画像なので奥行きがわかりづらいのです。
その点、ハイブリッドバッツでは、直接見たり触ったりもできるので、奥行きがわかり、クーパー(手術用ハサミ)などの器具を積極的に使うことができます。
完全胸腔鏡下手術に比べると、傷は1~2センチ大きくなりますが、開胸手術に比べればはるかに小さな傷で、肋骨や筋肉を切る必要もありません。
また、肺がんの手術でいちばん大事なのは、がんを確実に切除することです。
私は、術者のスキルは、ハサミの使い方にあらわれると考えています。
臓器と臓器の間を切っていくときに、シャープに剥離ができるか。
それが術者のスキルを見極める試金石になると思いますが、モニター視のみではどうしてもクーパーを十分に使うことができません。
ゆっくりそろそろと切り進めることになるので、時間もかかりますし、おそらく出血量も多くなり、かつ、シャープに切ることは難しいと思います。
そういう意味で、ハイブリッドバッツでは、直接見たり触ったりして奥行きを確認しながらシャープに切ることができ、傷も小さくてすむので、“いいとこどり”なのです。
さらに、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った「ロボット手術」もはじまっています。
肺がんに対してはまだ保険が適用されていないので、肺がんのロボット手術の経験がある病院は、国内ではまだ10施設程度です。
私の在籍する広島大学病院では、50数例の経験があります。
ロボット手術(ダヴィンチ手術)では、小さな穴から体内に挿入した胸腔鏡とロボットアームをコントローラーで遠隔操作しながら手術を行います。
その際、モニターで見ながら操作を行うのですが、普通の胸腔鏡手術とは異なり、ロボット手術では三次元画像が得られます。
奥行きもわかるので、モニター視だけでも自在にクーパー(手術用ハサミ)を動かすことができるのです。
今後、保険適用されれば、ロボット手術も、肺がんの手術の選択肢のひとつとしてもっと普及してくると思います。
※2018年4月より ロボット支援下 胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術(肺葉切除、または1肺葉を超えるもの)が保険適応