乳がんの検診と言えば、マンモグラフィーを思い浮かべる人が多いでしょう。
ただ、乳房のタイプによっては、乳がんがあってもマンモグラフィーではわからないことがあります。
乳房は脂肪と乳腺でできていて、マンモグラフィーを撮ると、脂肪は黒っぽく透けて写り、乳腺は白く写ります。
乳がんがあると、がんは白く写るのですが、このような乳腺の密度が高い乳房は全体的に白っぽく写るので、がんがあってもわからないのです。
こうした乳房のことを「高濃度乳房(デンスブレスト)」と言います。
乳房は、乳腺濃度の割合によって次のように4段階に分類されます。
日本乳がん検診精度管理中央機構ホームページ「乳房の構成の分類に関するお知らせ」より
このうち、「不均一高濃度」と「極めて高濃度」の2つが、「高濃度乳房(デンスブレスト)」と呼ばれます。
たとえば、授乳中は乳腺が張っているので、マンモグラフィーを撮ると全体的に真っ白に写ります。
ところが、授乳中ではない普通のときにも、特に若い人は高濃度乳房が多く、マンモグラフィーでは全体が白っぽく写ってしまうことが多々あるのです。
図) 乳腺濃度による乳房の分類
日本人は高濃度乳房(デンスブレスト)の人が多く、正確な割合はわかりませんが、半数以上が高濃度乳房にあたると言われています。
高濃度乳房の方の場合、乳がん検診としてマンモグラフィーを受けても意味がありません。
ところが現状、自治体の乳がん検診では、病変が見つかりにくい高濃度乳房の方であってもマンモグラフィー検査のみを行って「異常なし」とだけ伝えているケースがまだまだ多いのです。
高濃度乳房の方の場合、本来は超音波(エコー)検査を併用したほうが確実です。
公的な検診の場合、費用の問題からマンモグラフィーと超音波検査の両方を行うことは難しいかもしれません。
でも、せっかく乳がん検診を受けるなら、自分の乳房のタイプを知り、マンモグラフィーのみでは乳がんが見つかりにくい高濃度乳房タイプであれば超音波検査も受けることをおすすめします。
乳がんの手術には、「温存手術(乳房部分切除術)」と「全摘手術(乳房切除術)」があります。
がんのある部分とそのまわりだけ切除するのが温存手術で、乳房全体を切除するのが全摘手術です。
「なるべく乳房を残したい」「切除するのは最小限にしたい」という患者さんの希望から、少し前までは、温存手術が増えていました。
私の病院でも、一時期は、8割以上の手術を温存手術で行っていました。
ところが、今では全摘手術のほうが増えています。
正確に言えば、全摘手術を行ったあとに乳房再建術を受けられる方が増えているのです。
図)乳がんの温存手術と全摘手術
現在、当院の形成外科では、年間80~90例の乳房再建術を行っています。
乳がんの治療で損なわれた乳房を再建する方法には、自家組織を使う方法(皮弁法)と人工乳房(インプラント)を使う方法の大きく2種類があります。
このうち、患者さん自身のお腹や背中などから取った組織を胸に移植する、自家組織を使う方法は、以前から保険適用されていました。
この方法では、患者さん自身の組織を使うので自然な仕上がりになりやすいのですが、胸以外にも傷ができてしまう、技術的に難しく手術時間も長くなりやすい、回復までに時間がかかる――といったデメリットがあります。
一方、もうひとつの人工乳房を使う方法では、大きく下垂している乳房では難しいという難点はありますが、体のほかの部分を傷つけることがなく、回復も早く、手術時間も短いというメリットがあります。
ただ、少し前までは保険が効かず自費でしか受けられなかったため、経済的な問題から断念される方も少なからずいました。
人工乳房(インプラント)を使った乳房再建術も保険適用となったのが、2013年のことです。
当時は、乳がんにかかりやすい遺伝子を持っていたアンジェリーナ・ジョリーさんが、将来の乳がんを予防するために乳房の全摘手術と再建手術を受けたこともニュースになりました。
それ以来、全摘手術(乳房切除術)を選び、乳房再建術を受ける人が非常に増えています。
温存手術は、乳房を残せたとしても、きれいに残せるとは限りません。整容性が損なわれることもあります。また、乳房内で乳がんが再発する可能性も否定できません。
その一方で、乳房を全摘して再建すれば、「きれい」かつ「確実」です。
つまり、整容性も根治性も確保できます。
しかも、人工乳房(インプラント)が保険適用になってお金の心配もなくなったため、最近では、「全摘+再建」を選ぶ方が増えているのです。