乳がんの発見率や検診受診率の意味、正しく理解していますか?

マンモグラフィ
超音波(エコー)検査
温存手術
がん発見率、検診受診率、乳房温存率……。がんにまつわる情報が溢れているなか、数字だけが一人歩きし、ミスリードされてしまっていることもあります。 日本乳癌学会でガイドライン作成委員会の委員長を務める岩田広治先生は、数字を正しく理解することの大切さを訴えます。

乳がん検診はマンモのみ? 超音波併用?

乳がんの検診は、40歳以上の方は2年に1度マンモグラフィ検査を受けることが、ガイドライン上、推奨されています。

一方で超音波による検診は、積極的な推奨はされていません。

 

ただ、「J-STRAT(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial、ジェイ・スタート)」という東北大学の大内(憲明)先生らが行った、マンモグラフィのみの検診と超音波検査も併用する検診を比較した研究で、超音波検査を行うことでがんの発見率が上がるという結果が出ました。

 

だから、がんを早く見つけたいと思ったら、マンモグラフィ検査のみではなく、超音波検査も受けたほうがいいのです。MRIも受ければ、さらに早く見つかるでしょう。

 

がん検診には2面性がある

では、ガイドラインでも超音波検査を併用することを大々的に推奨するかというと、また別の話です。

検診には2面性があり、税金を使って行う自治体検診と、個人が自分のお金で受ける検診では決定的にスタンスが違います。

 

税金を使って行う自治体検診では、費用対効果が必ず求められます。

たとえば、1万人の方を検診して、マンモグラフィ検査のみ行ったら2人がんが見つかり、超音波検査も併用したら4人見つかったとしましょう。

2人増えることに対して、どれだけの費用を費やしますか――、という判断が求められます。

 

がんが見つかる人が2人増えたとしても、10年後の生存率を比べたら変わらないかもしれません。

 

そうすると、医療経済的には、税金をかけて行う意味はないのではないか、という話になるのです。

でも、本人としては、できるだけ早く見つけたいですよね。ですから、自治体検診で推奨される方法と、個人のがん検診で推奨される方法というのは違うのです。

 

がん検診受診率の本当の意味

検診といえば、国は、がん対策推進基本計画で、がん検診の受診率を50%にすることを目標として掲げています。

 

それに対して、現在のがん検診受診率は30~40%台と言われていますが、じつは、この数字は実際の受診率とは異なっています。

データとして出ているのは自治体で行っている検診の受診率であって、職域検診や個人が受けている人間ドックなどは含まれていません。

 

ですから、過小評価された数字なのです。

 

数字だけが一人歩きしてしまわないように、国民のみなさんも、正しく理解していただきたいと思います。

 

メディアの“良い病院”報道に惑わされないで

数字を正しく理解するということに関連して、以前、「乳房温存率」が注目された時期があります。

 

マスコミは、乳房温存率の高い病院がさも良い病院であるかのように大々的に取り上げました。

私は、大反対して、そういうデータの取り上げ方はやめてほしいと伝えていました。

 

なぜなら、「乳房温存率の高い病院が良い病院だ」とマスコミが騒げば騒ぐほど、医師は乳房温存手術を増やそうとします。

 

そうすると何が起こるのかと言えば、無理に乳房を温存しようとして、がんが残ってしまい、再発するリスクが高まるのです。

 

乳房を全摘していれば助かった命が、乳房を温存した結果、失われてしまった……ということが、当時、少なからずあったことは事実です。

それは本来あってはいけないことで、そうした事態は避けなければいけません。

 

最近では、乳房を全摘しても同時再建を行えるようになりました。

そうすると、今度は、“同時再建手術をたくさん行っている病院が良い病院”などと、マスコミに言われかねません。

 

もちろん、それも誤りです。

 

がんの手術は、がんをしっかり取り除くことがいちばんの目的であって、ご本人が満足のいく乳房の形を残してあげられるかどうかは次のテーマです。

その順序を、医師も患者さんも間違えないでいただきたいと思っています。

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