乳がんの内視鏡手術の条件。メリットとデメリットは?なぜ広がらない?

低侵襲
胸腔鏡下手術
乳がんの手術では、乳房を「全摘するか、温存するか」「開胸手術で行うか、内視鏡手術で行うか」という選択肢があります。がんを確実にすべて取り除きつつも、できるだけ傷は小さく……と、望む人は多いでしょう。どういうケースであれば温存手術や内視鏡手術が可能なのか、複十字病院 乳腺センター長の武田泰隆先生にうかがいました。

乳がんは“自分でわかるがん”

乳がんの場合、ご自身で乳房のしこりに気づいて、検査を受けて発見されることが多いです。

ですから、乳がんは、唯一自分でわかるがんなのです。

 

乳がんの治療には、手術、放射線、抗がん剤(化学療法)、ホルモン療法の4種類があります。

この4つを組み合わせて治療を進めていくのが基本ですが、ここでは、手術について説明します。

図)乳がん治療の選択肢

 

 

乳がんの手術、「温存」か「全摘」か

乳がんの手術では、乳房全体を切除する「全摘手術(乳房切除術)」と、がんのある部分とその周りのみを部分的に切除する「温存手術(乳房部分切除術)」の大きく2種類があります。

 

どちらが適しているかは、主に、「がんの大きさ」「がんができた場所」で決まります。

 

がんが大きければ、部分切除では取りきれません。

その場合、選択肢は全摘手術(乳房切除術)のみになります。

 

一方、同じ大きさのがんであっても、乳頭に近いところにあれば、温存はしにくく、全摘手術(乳房切除術)が選ばれることが多いです。

 

また、乳房の大きさのほか、ご本人の希望ももちろん大切ですので、主治医とよく相談してください。

図)乳頭に違い場所に乳がんが出来た場合は、全摘手術となることが多い。

 

 

乳がんの内視鏡手術とは?

乳がんの手術は、従来の開胸手術のほか、内視鏡(胸腔鏡)を使って行うことも可能です。

 

従来の開胸手術では、がんのある部分の皮膚に切開を入れて、直接肉眼で見ながらがんを摘出します。

この場合、胸に大きめの傷が残ってしまいます。

 

一方、内視鏡手術(胸腔鏡手術)は、小さく切開した部分から治療器具を挿入し、内視鏡で見ながらがんを取り除くという方法です。

 

従来の開胸手術のようにがんのできた部分の皮膚に切開を入れるのではなく、ふだんは見えない場所、あるいは目立たない場所に小さな切開を入れて手術を行うので、小さな傷ですむことがメリットです。

傷が小さい分、回復も早く、さらに血流を遮断しながら行うので、手術中の出血量が少なくなります。

 

私の病院の場合、切開するのは、脇、乳輪の縁、乳房の外側の3カ所。

 

脇のところは2センチメートルほどの傷で、手を下ろせば見えません。

乳輪の縁は半周ほど切開を入れさせていただきますが、色の変わり目なのでほとんど目立ちません。

そして乳房の外側は、5ミリメートルほどのごく小さな傷です。

図)武田先生が乳がん内視鏡手術で切開する箇所。目立たない場所を切開する。

 

 

乳がんの内視鏡手術は統一した手術手技がまだ確立しておらず、術式は病院によって変わってきます。

また、どういうケースの場合、内視鏡手術を選べるかは、病院の考え方によって異なります。

 

私の病院では、温存手術(乳房部分切除術)で、皮膚にがんが達していないケースに限って、内意鏡手術を行っています。

がんが皮膚に達している場合、皮膚にも切開を入れなければいけないので傷を小さくするという内視鏡手術のメリットがなくなるからです。

 

 

乳がんの内視鏡手術と再建手術

乳がんの内視鏡手術は、乳房の再建を行ううえでも、メリットがあります。

 

乳がんの手術では、乳房内にできたがんをまわりの組織とともに取り除くので、その部分が凹んでしまいます。

そこで、何かでうめてあげなければいけません。

 

その方法にはいくつかあり、私の病院では、乳房の外側からとった脂肪を欠損部に充填して再建する方法を採用しています。

この方法は、内視鏡手術だからこそ、やりやすいのです。

 

少し専門的な話になりますが、内視鏡手術では、乳房内で大胸筋と乳腺を剥離し、治療器具を動かせるスペースをつくってから、がんを切除していきます。

通常の手術よりも広く剥離するからこそ、乳房の外側から脂肪を持ってきやすく、よりきれいな形で再建がしやすいのです。

 

乳がんの内視鏡手術のデメリット

私の病院では、温存手術が可能な乳がん患者さんのおよそ8割が、内視鏡手術を選ばれます。

しかし、現状では、どこの病院でも内視鏡手術を受けられるわけではありません。

 

メリットが大きい一方で普及しない理由のひとつは、手技が煩雑なため熟練した技術を要するからでしょう。

 

乳がんの内視鏡手術は、慣れれば、直接肉眼で見ながら手術を行うのと変わらない時間で行うことができます。

しかし、慣れるまではどうしても時間がかかってしまいます。

 

もうひとつの理由が、コストです。

 

通常の開胸手術でも、内視鏡手術でも、乳がんの温存手術(乳房部分切除術)の保険点数(医療機関にとっての収入)は同じです。

 

ただ、内視鏡手術では、使い捨ての特殊な治療器具を複数使います。

ひとつが数万円するような高価なものですが、別途保険請求することはできません。

そのため、病院としては報酬上のメリットが少ないのです。

 

この2点が、乳がんの内視鏡手術の普及を妨げている主な要因だと思います。

 

乳がんの内視鏡手術は日本で様々な創意工夫がなされてきた術式です。

 

従来の直視下手術と比較したデータはまだ不足していますが、国内で乳がん内視鏡手術が行われるようになってから既に20年程度が経過しており、長期成績を含めて臨床上は一定の評価が得られています。

 

どこの病院でも受けられる手術ではないので、乳がんの内視鏡手術を受ける場合は、熟練した医師のもとで、十分に説明を受けてから治療を受けることをおすすめします。

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