いま、毎年新たに9万人の方が乳がんにかかっています。
そのうち5.6%が40歳以下の方なので、40歳以下でも毎年5000人以上もの方が新たに乳がんにかかっているのです。
最近では結婚も出産も遅くなっているなか、乳がんにかかったけれど、将来的には子どもがほしいという方がたくさんいらっしゃいます。
ただ、治療によって妊娠ができにくくなる、あるいは妊娠ができなくなってしまうこともあります。
このことを医学用語では、「妊よう性が低下する」「妊よう性が失われる」と言います。
なぜ妊よう性が落ちるのかというと、抗がん剤治療によって卵巣機能が低下するからです。
卵巣機能が低下すれば、卵子を排出できない、つまり生理が来なくなります。
では、どうやって卵巣機能を守り、妊よう性を守るのか。
その方法は、大きく2つあります。
ひとつは、生理を止める注射を打ち、卵巣を守るという方法ですが、まだ有用性が明確になっていません。
もうひとつは、卵子または受精卵を凍結保存するという方法です。
治療の前に卵子、あるいは、パートナーがいる場合は受精卵を凍結保存して、治療が終わってから母体に戻すことで、妊よう性を守るのです。
その際、卵巣自体をとって凍結保存して、治療後に卵巣ごと戻すという方法もありますが、まだ臨床試験段階で、実際はあまり行われていません。
こうした妊よう性を守るための医療のことを、妊よう性温存治療と言います。
将来妊娠を希望されている方は、そのことを主治医に伝えてください。
主治医も、妊娠の希望はあるのか、治療によってどのくらい妊よう性が低下すると考えられるか、事前に患者さんにお話すると思います。
そして、妊娠を希望される場合は、治療の前に一度、生殖医療を行う医療機関を受診していただきます。
というのは、乳がんの治療を行う医師と、妊よう性温存治療を行う医師は、別なのです。
乳がんの治療医は、乳腺外科医または腫瘍内科医ですが、妊よう性温存治療を行うのは生殖医、つまりは産婦人科医です。
生殖医の話を聞いていただき、実際に妊よう性温存治療を受けるということになったら、がんの治療をはじめるのは少し先に延ばすことになります。
そして、生殖医とがんの治療医で連絡を取り合い、どのくらい待つ余裕があるのか、治療によってどのくらい妊よう性が落ちる危険性があるのかといったことを情報共有し、しっかりコミュニケーションを取った上で治療をはじめていきます。
乳がんになったからといって、必ずしも子どもを持つことをあきらめなければいけないわけではありません。
まずは、主治医に相談しましょう。