直腸がんの特徴は、結腸がんと比べたとき再発率が10%〜15%ぐらい高くなることです。
だから直腸がんの場合、手術前に放射線と抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術を行うのです。
このように直腸がんを治療するために、抗がん剤・放射線・手術の3つの武器をすべて使うことを集学的治療と呼んでいます。
この治療は、直腸がんのステージⅡまたはⅢである程度の局所に留まり骨盤の中に広がった癌に対して行う治療になります。
いま、直腸がんで行われる集学的治療の1番のメリットは、再発率が減ることです。
因みにがん研有明病院では、臀部に近い直腸がんの局所再発率が3%〜5%の間で推移しています。
また直腸がんの治療で1番問題になる点として、肛門を温存できるかできないかになります。
それは、直腸がんの腫瘍が大きければ大きいほど、また臀部に近ければ近いほど、肛門を切除し人工肛門をつける確率が高くなるからです。
ところが集学的治療の放射線治療で腫瘍を小さくすることで、より高い肛門温存率を目指すことができるのです。
このようなメリットもあり、がん研有明病院では積極的に放射線治療と抗がん剤治療を手術前に行っています。
現在の集学的治療のほかに、もう1つの大きな流れとして直腸がんの腹腔鏡手術※1がどんどん増えています。
特に日本では多く行われるようになっているのです。
当然ですががん研有明病院でも、ほぼ100%の症例で腹腔鏡手術が行われています。
その理由は、治療法に多様性が伴ってきているからです。
※1 腹腔鏡手術:腹腔鏡手術とは、腹部などの皮膚に1cmほどの穴を4〜6個開けて、その穴に専用の内視鏡や専用の手術器具を挿入させて行う手術です。
Watch and Waitは、非常に新しい治療法のためまだ日本では普及していません。
いま集学的治療で放射線治療と抗がん剤治療を手術前に行い腫瘍を縮めてから手術していると、大体1〜2割ぐらいの患者さんで手術後の標本を調べると癌が完全に消えている症例があります。
つまり手術を無駄に行っていたことになり、このような患者さんは非手術療法で良いのです。
そしてこの非手術療法を行った患者さんは、3ヶ月〜半年ごとに内視鏡などでまた癌が出てきていないか診察していきます。
放射線治療や抗がん剤治療によって見た目は癌がなくなったように見えても、実際はミクロなレベルで癌が残っていることがあるのです。
そして4人に1人ぐらいは、また癌が出てくるのです。
そのようなときは癌が出てきた患者さんだけ腫瘍部位を手術で取り除くのです。一方、癌が出てこなかった患者さんは手術しないで、また様子を見るのです。
これがWatch and Waitの治療のやり方になります。
このようなWatch and Waitで治療する患者さんとは、元は大体ステージⅡ・Ⅲである程度の腫瘍が広がって放射線治療が必要な方になります。
どんなに上手な外科医が手術しても直腸がんの場合、排便障害が残ってしまいます。
でもWatch and Waitで手術しなければ、排便障害はほどんど残らないので患者さんにとっては大きなメリットになります。
またWatch and Wait は、内科・放射線科・大腸外科の3科が定期的に会議を開き、1人の患者さんに対して治療方針を決めていく体制が整っている病院でなければ、治療が難しいと思います。
つまり、そういった専門家が集まって患者さんのベストな治療法を一例一例選びながら治療していくことが、Watch and Waitにとって非常に大事になってくると思います。