大腸がんができたらどのような症状があるのでしょうか。
「大腸がんはどういう症状があらわれるのですか?」「痛みってないものですか?」と、診察室でよく患者さんから聞かれます。
というのは、がんが大きくなってから見つかり、「どうしてこんなになるまで気づかなかったのか……」と悔やまれる方は少なくないのです。
でも、大腸がんの早期には痛みはまずありません。
がんがある程度進行しても、痛みを感じないことがほとんどです。
一般的に、がんが腸を閉塞するほど大きくなってはじめて、お腹が張ったり、痛みが出たり、症状が出はじめます。
また、盲腸から肛門まで1.5メートルから2メートルほどある大腸では、どこにがんができるかによって症状は若干異なりますが、どの部分のがんであっても共通してみられるのが、便通異常です。
がんが大きくなるにつれ、便秘のみならず下痢もあらわれます。便秘だけではなく下痢も大腸の症状としてあるということは、意外と知られていないので、知っておいてほしいですね。
便秘と下痢を繰り返すような便通異常、便に赤黒い血液が混ざっている場合は異常ですから、早めに検査を受けていただきたいと思います。
肝臓やすい臓は「沈黙の臓器」と言われますが、大腸も早期には症状が出にくい臓器です。
ですから、大腸がんを早期発見するには、やはり検診を受けていただくのがいちばんです。
40歳以上の方は、便潜血検査の2日法(2日分の便を採って提出する方法)で大腸がん検診を受けていただくことが必須であり、義務と言っても言い過ぎではないと思います。
そして、便潜血検査で陽性となった場合は、内視鏡検査を受けてください。
当院では、1997年から大腸がんの腹腔鏡手術を行ってきました。
当初は、早期の大腸がんからはじめ、手術技術が進歩するのに伴い、徐々に進行がんにも適用を拡大し、2017年には約95%の大腸がんの患者さんに腹腔鏡手術を行っています。
一般的に、腹腔鏡手術のメリットとしてまず挙げられるのは
ために、「体への負担が少ない」「体にやさしい手術」であることです。
ただ、ここ20年、腹腔鏡手術を行ってきて、さらに大きなメリットがあることに気づきました。
それは「よく見える」ことです。
体内にカメラを挿入するので、見たいものを接近して拡大してみることができます。
しかも、今はハイビジョンあるいは4K、8Kのカメラを使っているので、神経線維の1本1本がくっきりと見えるのです。
そのため、繊細に切り、残したいものを確実に残すことができます。
つまり、画質の向上に伴い、手術自体のクオリティも上がっています。
ただし、腹腔鏡手術は簡単な手術ではありません。
数年前に、ある病院で腹腔鏡手術での死亡事故が続いたことがニュースになりました。
その報道を聞いて、不安に感じた方も多いでしょう。
腹腔鏡手術を行うにはしっかりトレーニングを積み、第三者から見ても安全な手術を行わなければいけません。
私自身が腹腔鏡手術をはじめた20年前には、学ぶための教材は限られた教科書やビデオしかありませんでした。
そのなかでいちばん役立ったのは、実際の手術の見学です。
スペシャリストのいらっしゃる施設に何度も通い、見学させていただきながら、その場で手技やコツを教えていただきました。
そのおかげで今の自分があります。
ですから私も、大学(岩手医科大学)の後輩や関連病院の後輩に、自分が培ってきたことを伝え、指導・教育する責任があります。
そこで2005年から、手術手技を動画で撮り、なおかつ、手術中にマイクをつけてその場で音声も加え、後輩たちが後から学べるような教育システムを始めました。
また同じ2005年から、日本内視鏡外科学会で「技術認定制度」が始まりました。
これは、「内視鏡下手術を安全かつ適切に施行する技術を有し、かつ指導するに足る技量を有していること」を認定する制度です。
認定を受けるには、患者さんに承諾を得た上で手術動画を提出し、二人の審査員の評価をクリアしなければいけません。
じつは非常に狭き門で、大腸分野での今年の合格率は26%でした。
私が勤める岩手医科大学では、前述の教育システムが奏功してか、受けた人間が全員合格し、すでに8人の後輩が技術認定を受けています。
数年前から国内留学生も受け入れ、その先生方も技術認定を取得し、帰られています。