大腸がんに限らず、消化管(食道、胃、腸)にできるすべてのがんは、早期には症状がありません。
早期がんは、大腸がん検診で便潜血検査を受けて陽性だった方が内視鏡検査を受けられて見つかる、ということがほとんどです。
大腸がんが進行すると、下血のほか、大腸の狭窄による腹痛、便秘と下痢の繰り返し、腹部膨満感、腹痛……といった症状が出てきます。
こうした症状がある場合、手術が必要になることが多くなりますし、治療も大変になってきます。
内視鏡治療で切除できるのは、早期の大腸がんまでです。
大腸の壁は、内側から「粘膜」「粘膜下層」「固有筋層」「漿膜下層」「漿膜」という5つの層にわかれていますが、内視鏡治療の対象となるのは固有筋層の手前にとどまっているがんになります。
もちろん、進行したがんも内視鏡で摘除することは不可能ではありませんが、腸に大きな穴が空いてしまうので現実的ではないのです。
図)大腸壁の構造。内視鏡治療の適応である「早期大腸」がんに分類されるのは粘膜層・粘膜下層にとどまっているもの。
内視鏡治療の方法には、「ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)」「EMR(内視鏡的粘膜切除術)」「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」の主に3種類があります。
ポリペクトミーとは、「スネア」という輪っか状のワイヤーを引っかけて絞めて、高周波電流で焼き切る方法です。
大腸の粘膜にイボのように隆起しているポリープが対象となります。
しかし、平べったい形をした大腸がんやポリープの場合、そのままではスネアで引っかけることができません。
そのため、病変の下の粘膜下層に生理食塩水などの液体を注入して、切り取りたい部分を少し持ち上げてから、スネアを引っかけて焼き切ります。
これが、「EMR(内視鏡的粘膜切除術)」という方法です。
EMRであれば、平らながん・ポリープでも持ち上げて切り取ることができます。
図)EMR(内視鏡的粘膜切除術)のイラスト
しかし、この方法では、スネアのサイズ(2~3センチ)よりも大きな病変は、一度に切除することができません。
そこで、最近登場してきたのが、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という方法です。
これは、専用のナイフでがん・ポリープの周囲を切開し、病変のすぐ下の粘膜下層に液体を注入し、外科手術のように剥がしていくというものです。
図)ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)のイラスト
大腸のESDは、2012年に保険適用され、徐々に普及してきましたが、まだどこでも受けられるわけではありません。
食道、胃、大腸という消化管のなかで、技術的にいちばん難しいのが大腸なのです。
大腸は長い管状の臓器で、ひだがあったり、折れ曲がっていたりしますよね。
そのため、大腸内視鏡を行うにあたって、操作が難しい部分も多くなります。
大腸ESDは、胃のESDのようにどこの医療機関でもできるわけではなく、ハイボリュームセンター(症例数の多い病院)などに限られています。