直腸がんへの新たなアプローチ、肛門温存手術とは?

下部直腸がんに対して行われる手術は、2000年頃までは、肛門を温存しない腹会陰式直腸切断術が主流でした。しかし、近年、ISR(内肛門括約筋切除術)やESR(外肛門括約筋切除術)といった、肛門を温存する手術の施行件数が飛躍的に増加しています。 人工肛門を設けずに済むことから、ニーズが高まっている肛門温存手術。久留米大学消化器外科外科学講座の藤田文彦先生に、最先端の肛門温存手術について話をうかがいました。

 

肛門温存手術の施行方法

 

 

肛門温存手術においては、まず、腹腔鏡下でリンパ節郭清と、直腸周囲の組織の剥離を行います。

その後、骨盤の一番深い部分である、肛門の内側から器具を挿入し、病変へとアプローチしていきます。

 

肛門内部を十分見やすくした後、肛門側からがんを確認しつつ切除するという、いわゆる挟み撃ちのような形で手術を行うことが、現在の肛門温存手術の一般的な形式だと思います。

 

 

ESRとISRの区別

 

 

ESRISRは、ともに肛門括約筋を切除して、肛門を温存する手術ですが、切除範囲に違いがあります。

 

 

ISRとESR

 

 

ISRは、腫瘍と一緒に、内肛門括約筋という筋肉を切除する手技になります。内肛門括約筋とは、平滑筋であり、不随意筋と呼ばれる、人間の意思で動かすことができない筋肉です。

内肛門括約筋は、意図して閉じたり広げたりすることができません。

 

これに対し、ESRは、外肛門括約筋まで一緒に切除する手技になります。

内肛門括約筋の外側にある、外肛門括約筋は、横紋筋であり、随意筋と呼ばれ、人間の意思で動かせる筋肉になります。

外肛門括約筋は、臀部にぎゅっと力を入れることで、締めることができます。

 

ISRは、がんが粘膜から内肛門括約筋にわずかに浸潤している場合に行われESRは、がんが内肛門括約筋に深く浸潤している場合に行われます。

 

 

肛門温存手術の注意点とは

 

 

手術後の排便障害

 

 

肛門温存手術の注意点としては、直腸がんの手術ですので、これまで便を貯蓄していたスペースが無くなってしまいます。具体的には、

 

●  一回に出る便の量が、非常に少なくなってしまう。

●  便の回数が多くなってしまう。

という特徴があります。

 

こういった欠点を改善するため、術後は、患者さん自身で、肛門の機能を鍛える訓練を行うことが必要となります。

臀部を締めたり、肛門周囲の筋肉を動かしたりする訓練を行うことで、少しずつ、肛門機能を回復することができますので、そのような運動の指導を、コミュニケーションを取りながら行う必要があると思います。

 

 

ESRの注意点

 

 

ISR、u-ESR(外肛門括約筋を約半分切除する術式)、e-ESR(外肛門括約筋をほぼ全切除する術式)を行った患者さんを対象に、それぞれの術後十二ヵ月後の排便状態について、聞き取り調査を行いました。

その結果、e-ESRの術後は、半分近くの患者さん一日の排便回数が6回以上になっていたり、便意があってから15分以上我慢できなかったりなど、排便機能がもっとも低下していました。八割の方パッドの装着を要しており、排便のコントロールに苦労されています。

 

やはり、広範囲に筋肉を切除してしまうと、手術後の排便障害が顕著になります。

肛門は残すことができても、結局は便が漏れることで、オムツを履かなければならなくなったり、長期の旅行に行きづらかったり、人ごみの中に出にくいといったような、排便で苦労されている方がいらっしゃいます。

 

ESRを行う適用として、筋肉の切除範囲や腫瘍の深さを十分考慮して、腫瘍をきちんと取りきれないと判断した場合は、肛門温存を諦めることも、一つの選択肢だと思います。

 

 

肛門温存手術を行うにあたって、病院を選ぶポイント

 

 

下部直腸がんに対する術式の変遷

 

 

ISRを行う施設は、近年非常に増えてきました。腹腔鏡手術の進歩により、骨盤の細かい解剖の理解が深まったことで、多くの施設で行われるようになりました。

これに対し、ESRは、施設によっては、手術の適用から外してしまうところが多くあります。技術面や医師の考えなどにより、ESRは行わないという施設もあります。

 

多くの経験を積んだ施設であれば、この程度の切除範囲であれば、がんもきちんと切除できて、肛門機能も残せるという、判断を行うことができます。そのような経験とデータを持っている専門の施設に、相談に行ってみるのも、一つの方法かと思います。