肺がんの薬物療法には、大きくわけて2つの治療があります。
1つ目は、治療のターゲットとなる遺伝子に異常がある肺がんのタイプを同定し、そこから分子標的薬を選択する治療です。
2つ目は、PD-L1と呼ばれる免疫療法が効きやすい肺がんのタイプか調べる検査を行い、使えるようであれば免疫チェックポイント阻害剤を使用する治療です。
実際、分子標的薬が使える異常な遺伝子は、日本人に多いEGFR※1というタイプ、そのほかにALK※2・ROS1※3・BRAF※4というタイプも見つかっています。
それに、このようなターゲットへの治療ができる分子標的薬が開発され、いま使用されています。
分子標的薬はがんを標的とする一方で、自分の細胞自身を攻撃しないタイプの薬剤になるため、劇的な効果が期待できて副作用が少ないのが特徴になります。
※1 EGFR:EGFRに変異があると、がんを増殖させるためのスイッチがオン状態なりがん細胞が限りなく増えます。
※2 PD-L1:免疫であるT細胞の表面にあるPD-1に、がん細胞の表面にあるPD-L1がつくと免疫力が低下します。
※3 ALK:ALKの融合遺伝子があると、ここからできたたんぱく質によってがん細胞を限りなく増え続けさせます。
※4 ROS1:ROS1の融合遺伝子があると、ALK融合遺伝子と同じような作用でがん細胞が増え続けます。
※5 BRAF:BRAFの遺伝子変異があると、EGFR遺伝子変異と同じようにがん細胞のスイッチをオン状態にします。
現在、肺がんの薬物療法でEGFR-TKI※6(イレッサ※7)の治療を行っている患者さんには、残念ながらほぼ全員に再発が起きています。
その理由には薬物耐性があり平均で1年といわれていますが、これより早い方もいれば、長くEGFR-TK1が使える人もいます。
現在、肺がん治療で使われる分子標的薬には、第1世代から第3世代のものがあります。
第1世代のEGFR-TKIはイレッサとタルセバ※8と呼ばれる分子標的薬で、EGFRに異常をもつ物以外にも身体からもともと出ているようなEGFRを抑えるタイプになります。
第2世代と呼ばれるものは、EGFRだけでなくヒト上皮成長因子受容体を広く抑える働きをもち、そのために分子標的のターゲットが広くなり副作用が強い欠点があります。
第3世代と呼ばれるEGFR-TKIはいままでの分子標的薬と少し毛色が違います。
この毛色とは、第1世代の薬が効かなくなった人たちのEGFR耐性に新たな別の遺伝子耐性が追加された方に対して、これを克服するために作られたのが第3世代EGFR-TKIです。薬剤名はタグリッソ※9です。
この第3世代のEGFR-TKIが、今年から最初(ファーストライン)に使えるようになりました。さらに、これまでより副作用が少ない治療になることから効果に寄与するかも知れません。
ただし、第3世代の効果は半分くらいの患者さんにしか発現しないため、第1世代のイレッサやタルセバの効果が弱くなった患者さんは投与を続けずに、通常の点滴による抗がん剤に切り替えていくのが理想の治療になっています。
※6 EGFR-TKI:イレッサやタルセバなどのEGFRチロシ ンキナーゼ阻害薬のこと。現在、第1〜3世代があります。
※7 イレッサ:2002年に日本が最初の発売国になったEGFR-TKI。一般名はゲフィチニブで経口薬です。
※8 タルセバ:2007年に発売されて第1世代のEGFR-TKI。一般名はエルロチニブで経口薬です。
※9 タグリッソ:2016年に発売された第3世代のEGFR-TKI。一般名はオシメルチニブで経口剤です。
現在、肺がんの薬物治療にもう1つ登場したのが免疫療法です。
この免疫療法を肺がんの薬物療法のなかで、どのようなタイミングで使用するのが患者さんにとって望ましいのか、1番最初に話し合いをしなくてはいけないのです。
それはEGFRの遺伝子に異常がある肺がんの場合、一般的に免疫利用が効きにくいとされているからです。
つまりEGFRの遺伝子異常をもつ肺がん患者さんは、良い医師と出会い十分に話し合いながら、新しい治療を見つけていくのが1つの方法になります。