肺がんの薬物療法には、殺細胞性抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の3種類があります。
現在、肺がん治療で使われる3種類の薬剤は、時間(時期)を変えて、つまり有効なタイミングを考えて治療に使われています。
分子標的薬は、もっとも効果的にがんを制御できる薬剤になります。
分子標的薬の特徴は、従来の殺細胞性抗がん剤に比べて、がんを制御している期間、すなわちがん細胞の活動を抑えている期間が2〜3倍になり、薬物治療による長期間のコントロールが可能になったことです。
ただし分子標的薬は、がん細胞に分子の異常がなければ、まったくがんを抑える効果が期待できないのです。
肺がん薬物治療において分子標的薬が効果を発揮する有名な遺伝子変異は、上皮成長因子受容体すなわちEGFR遺伝子異常です。
そのほかに、未分化リンパ腫キナーゼであるALK、新しく発見されたものとしてROS1遺伝子があります。このような遺伝子変異は、ほとんどが腺がんから発見されます。
現在、EGFR遺伝子・ALK融合遺伝子・ROS1融合遺伝などの分子異常を調べて陽性であれば、先に分子標的薬を使用することが勧められています。
肺がん薬物治療において、一番新しく一番話題になっている薬剤が免疫チェックポイント阻害剤です。
免疫チェックポイントでは、PD-1とPD−L1という分子が働いています。PD-1は免疫を司るリンパ球の方にある分子です。リンパ球は、がん細胞を攻撃するための免疫細胞であります。
一方のPD-L1は全身にあり、がんがPD-L1を利用してリンパ球を眠らせることができます。
つまりPD-1とPD-L1が結合することにより、がん細胞を攻撃するリンパ球を眠らせることができます。
このPD-1とPD-L1の結合をブロックすることによって、リンパ球が眠らないようにするのが免疫チェックポイント阻害剤の役目になります。
免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1とPD-L1が結合してリンパ球の働きをブロックしていなければ、効果が期待できません。
つまりPD-L1を発現しているがん細胞には、免疫チェックポイント阻害剤が有効な治療方法になるのです。
しかしPD-L1が出ていない患者さんには、免疫チェックポイント阻害剤の臨床効果が少し乏しいといわれているのが現在の考え方です。
免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待できる患者さんとは、がん細胞にPD-L1が発現していることが条件になります。
がん細胞にPD-L1が50%以上発現している人に免疫チェックポイント阻害剤のペムブロリズマブ※1を使用した患者さんと、従来の殺細胞抗がん剤(プラチナ製剤)に第3世代抗がん剤を併用した患者さんとを比較した結果、がんの制御期間はペムブロリズマブの方が圧倒的に長く効果を発揮し、従来の化学療法より命の長さを改善していました。
また半年ぐらい経過観察をして化学療法に入っていた患者さんや次の治療に入らなければいけない8割の患者さんに対して、免疫チェックポイント阻害剤のペムブロリズマブやニボルマブ※2等を使用した結果、命の長さはペムブロリズマブを使った方が長くなりました。
現在、PD−L1が50%以上の患者さんには、ペムブロリズマブを使うことになっています。
一方、PD−L1が50%未満の場合、まずはプラチナタブレット※1を投与するのが今の現状的なところです。
※1 ペムブロリズマブ:注射、医薬品名はキイトルーダ、開発販売元はMDS製薬、肺がんの保険適応はPD−L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
※2 ニボルマブ:注射、医薬品名はオプジーボ、開発販売元は小野製薬、肺がんへの保険適応は切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌、PD−L1陽性に関係なく使用出来るが、臨床ではペムブロリズマブ無効例になります。
※3 プラチナタブレット:肺がんの標準的な化学療法、シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ製剤とパクリタキセルやゲムシタビンなどの第3世代抗がん剤を組み合わせた2剤併用療法のこと