非小細胞肺がんの治療において行われる薬物療法には大きく分けて3つあります。
従来は抗がん剤のみを使用するのが一般的で、毛髪が抜けたり嘔気を催したりするといった副作用がありました。
近年、開発されて使用されることが多くなってきたのが分子標的治療薬や免疫療法です。
分子標的治療薬とは、特定のタンパク質のみを標的として攻撃するように精製した治療薬です。この時標的とするタンパク質は、がん細胞が最も依存しているタンパク質を探して設定するため、効率よくがん細胞を死滅させることができます。
したがって、全身の組織に影響を及ぼす抗がん剤を投与するよりもずっと少ない副作用で治療できることが多いのです。
また、免疫療法とは、人間の体にはがん細胞を攻撃するための免疫細胞が元々備わっている、という仮説に基づいています。がんの状態にある時はがん細胞がその免疫細胞の攻撃を抑制しているのではないかと考えて、実際にがん細胞自体が免疫細胞からの攻撃を防ぐ機構を持っていることを発見したのが先日、ノーベル賞を受賞された本庶佑先生の研究です。
つまり、がん細胞による攻撃の抑制を薬で解除することで、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるような状態にするのが免疫療法です。投与する薬によって直接がん細胞を攻撃するのではなく、私たちの体が元々持っている免疫機能を回復させることでがん細胞を死滅させる治療法なのです。
免疫療法の中でも、肺がんの領域で有効な治療薬として用いられるのが「免疫チェックポイント阻害薬」です。
免疫細胞は「自分の細胞」と「自分でない細胞・正常から外れた異常な細胞」を見分ける能力を持っています。
しかし、がん細胞は元々自分の細胞であったものが「異常化したもの」であるにも関わらず、何らかの機構によって免疫細胞の攻撃を免れています。このブロックを解除して、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする工夫が施されているのが免疫チェックポイント阻害薬です。
免疫チェックポイント阻害薬の問題点は、100人のうち10~20人程度にしか効果を発揮しないということです。したがって、免疫療法を行う際には、その人が免疫療法を施して効果が発揮されるタイプの患者なのかどうかを見分けることが重要になります。
また、抗がん剤と併用して免疫療法を行なっても副作用があまり大きくならないということがわかってきたため、抗がん剤療法と免疫療法を個別に行うよりも、並行して行う方が良いのではないかという考え方も出てきています。
プレシジョン・メディシンとは、多くの場合ゲノム医療と密接に関わっています。
がん患者がどのようなゲノム異常・遺伝子異常を持っているのかを把握した上で、治療を行うというものです。
肺がんであれば、現在4つのゲノム異常に対して有効な治療薬があり、該当のゲノム異常を持つ患者に対しては当てはまる治療薬を投与するのが標準的です。
同じ遺伝子異常には同じ治療が適用できる、という枠組みも提唱されてきており、現在も開発が進められています。
多くの患者のゲノムを調べることで、ピンポイントに効果のある治療薬を開発または発見して、治療に適用するというのが、プレシジョン・メディシンの1つの方向性であります。