直腸がんにおける放射線治療のメリットは、顕微鏡レベルの小さいがん細胞を死滅させることができるということです。
このような小さながんは肉眼では見ることができないため、外科的切除では取りきれずに残ってしまう可能性があります。
それを死滅させることで、局所における再発のリスクを下げることができます。
もう1つのメリットとしては、肛門温存の可能性があるということです。
肛門の近くにできた直腸がんは肛門を温存しての切除術が非常に難しいとされていますが、術前に放射線治療を行うことで腫瘍の縮小ができれば、肛門温存の可能性が高まります。
直腸がんの放射線治療には様々な準備が必要です。
その1つがCTによる画像検査です。
画像検査を行うことで、コンピュータ上で「どこに、どれだけの量の放射線を照射するか」をプログラムします。
ここでプログラムされたデータを元に患者一人ひとりに合わせた放射線治療を行うのです。
直腸がんの放射線治療には、X線を用います。
X線は照射されても熱さや冷たさ、痛みは感じません。
放射線治療を行う際には、治療期間中や治療終了から少しの間に生じる急性の副作用や治療が終了してから長い期間が経過してから生じる晩期障害などが起こる可能性があります。
例えば、放射線治療が終了してから半年や1年が経過してから、骨盤の骨にヒビが入ったりすることがあります。
これを不全骨折と言い、これは晩期障害に該当します。
放射線の副作用は、放射線を照射して通り抜けていく部分にしか生じないため、直腸がんの放射線治療で毛髪が抜けたりするといったことは起こりません。
ただし、放射線を照射した部分についてはあらゆる副作用を生じる可能性を想定しなければなりません。
起こりうる副作用がどのような症状なのか、またどうすれば対処可能なのかといったことはきちんと説明される必要があります。
術前放射線治療は全ての直腸がんで適応されるわけではありません。
適応される直腸がんは、進行直腸がんという、かなり大きな腫瘍で、かつ近くのリンパ節に転移も起こしているような状態です。
このような直腸がんの場合、外科的治療で切除するだけでは周囲から再発するリスクが高いため、術前に放射線治療を行うことで腫瘍の大きさをある程度小さくして、リンパ節への転移を防ぎ、再発を防止します。
肛門近くに直腸がんがあり、普通に切除をすれば永久人工肛門になる可能性が高い場合なども、術前放射線治療を行なって腫瘍を縮小することで、永久人工肛門を避けられる可能性があります。
放射線治療の方法には、短期間で照射する方法と、5、6週間かけて照射する方法の2つがあります。
がんの病巣をしっかりと縮小して手術する必要があるケースでは、長期間の放射線治療を選択することになります。
手術で腫瘍を取り切ることができても再発リスクが残るようなケースでは、短期間の放射線治療が選択されます。