通常の甲状腺手術は頚部に皮膚切開を入れる手術です。
甲状腺内視鏡手術の場合は衣服で隠れる頚部の外に切開創を置くことによってより整容性を高めた甲状腺の摘出手術になります。
甲状腺内視鏡手術の特徴としては頸部以外のアプローチの方法が多彩であると言う点があります。
例えば鎖骨下のからアプローチする方法や、あるいは前胸部から、最近では耳の後ろや口腔内からのアプローチ法もあります。
いずれにせよ頚部の外に傷があるため、非常に整容性の高い点が特徴です。
良性疾患等関しては、ほぼ全ての疾患が適用となります。
甲状腺の良性結節は当院では8cmまでを上限として設定しています。
胸骨や鎖骨の下に深く入り込んでいるケースや、縦隔に伸展しているようなケースでは、適用外となる場合があります。
バセドウ病に関しては甲状腺の推定重量が120gまでのケースを当院では上限としています。
これは施設によっては60gを上限とする場合もあり、少しばらつきがあります。
副甲状腺の良性腫瘍に関しては初回手術のほぼ全例で適用となります。
甲状腺の悪性腫瘍の外科手術において、内視鏡が適用されるのは、甲状腺未分化がんを除いた甲状腺がんの症例です。
甲状腺がんの80%以上を占める乳頭がんは、鹿児島大学の基準では、腫瘍径4cmで、器官や神経に浸潤がないような症例を対象としています。
病院や施設によっては、この大きさが異なる場合がありますが、大きなリンパ節転移を伴うものや総頸動脈の外側に転移があるものは、内視鏡手術の適用から除外されます。
濾胞性腫瘍に関しては、術前にがんであるという診断をつけることが難しいため、上限8cmを基準として、内視鏡手術で摘出しています。
髄様がんに関しては乳頭がんと同様の適応を基準としています。
良性腫瘍と悪性腫瘍の手術における違いは、リンパ節を郭清(摘出)するか否かによります。
良性腫瘍の場合、甲状腺を摘出すれば手術は終了となります。
一方、悪性腫瘍の場合は、腫瘍を摘出した後、腫瘍の近くにあるリンパ節をきれいに摘出する操作が加わるため、手術時間はより長くかかりますし、求められる技術も高くなります。
これらの手術を内視鏡で行う場合には、さらに時間がかかることになります。
甲状腺内視鏡手術においては、手術時間の短縮が今後の課題でしょう。
手術時間の短縮には専用デバイスの開発が不可欠であると考えています。
手技的な観点から言えば、甲状腺内視鏡の悪性腫瘍手術は非常に高難度の手術であり、手術を行う医師側には十分なトレーニングや経験が必要です。
そのため、内視鏡手術を行っている施設はまだまだ多くはありません。
ただし最近になって保険収載されたこともあり、甲状腺内視鏡手術を行っている施設施設は徐々に増えています。
今後も益々発展していく分野であると考えられます。