今日、手術のメリットとしては、オープン手術より時間がかかるということもありますが、整容性が高いというだけでなく、オープン手術よりも悪性腫瘍に対して摘出したリンパ節の数が多いという点があります。
これについては、データで示されているものです。
この理由としては、内視鏡で視野をズームすることができるため、従前よりも良好な視野で手術を行えるという点が考えられます。
より多くのリンパ節を摘出できるということは、リンパ節転移を抑制することができるため、より根治性の高い手術が可能であるということが考えられます。
これは内視鏡手術の大きなメリットの1つでしょう。
またその他のメリットとして、術後の回復が早いという点も挙げられます。
術後3時間程度で、飲水やプリン・ゼリーなどの摂取を開始される患者さんが多くいます。
初めは良性腫瘍として手術を始めても、術中に悪性腫瘍と診断される場合があります。
このような場合は、術式の変更することがあります。
例えば、「甲状腺の半分を摘出する予定であったが全摘術に切り替える」あるいは「リンパ節郭清を追加する」などです。
術後にがんと診断された場合には、二期的に追加の切除を行う場合もあります。
内視鏡手術を行うかどうか、またオープン手術を選ぶかどうかは、アプローチの違いによります。
いずれの手術方法を選んでも、疾患の治療方針や治療方針は全く変わりません。
内視鏡手術であっても、オープン手術と同様の対応を行います。
内視鏡手術が難しいとされる理由の1つには、手術中に甲状腺を直接手で触れられない点にあります。
あるいは神経器官を直接牽引(引っぱる)することができない点が最大の難所でしょう。
オープン手術であれば、助手の医師が指で即座に牽引できる部分であっても、内視鏡手術の場合は、内視鏡器具を使って間接的に圧排したり操作したりすることになります。
いかに安定してきれいな術野を確保するかということが1番の課題です。
指では触れられないような首の筋肉を間接的に牽引できる鉗子や、甲状腺の重要な血管を簡単に挙上できて切離できるような専用機器が現在開発されています。
鹿児島大学では、トレーニングボックスと呼ばれる、内視鏡のトレーニングができるシステムが常設されています。
特に、若手医師はトレーニングボックスを使って、手術を始める前に器具に対する習熟を高めます。
ある程度器具に習熟したら、動物モデルでトレーニングをして、その後に実際に手術を行うことになります。
学会には、内視鏡甲状腺手術ワーキンググループと言うグループがあり、これからトレーニングシステムや甲状腺内視鏡手術を始める施設が症例の多い施設に見学に行くシステムのあり方などについて議論がなされています。
甲状腺内視鏡手術は、整容性以外にも根治的なメリットを持ち合わせた非常に有用な術式です。
自己負担額もオープン手術と全く変わりません。
今までこの術式をご存じなかった患者さんも今後は選択肢の1つとして考えていただきたいと思います。