胃がんに特有な症状はありません。そのため、検診などで胃がんが発見される場合、症状がない方がほとんどです。
がんが進行し、潰瘍などができてくると、痛み、通過障害によるつかえ感、嘔吐といった症状が出てきます。
ただし、症状が出てからでは、治るチャンスが少なくなってしまうので、症状がないうちに検診で発見されるのが理想的です。
胃がんが疑われる場合、まず、内視鏡検査を行います。
内視鏡で胃の内部を観察し、病変からごく一部の組織を取って病理診断を行い、がんかどうかの確定診断を行います。
胃がんには、主に「分化型胃がん」と「未分化型胃がん」の2種類があります。
分化とは、ひとつの受精卵から発生した細胞が、分裂・増殖を繰り返すなかで、成熟した細胞に変化していくこと。
未分化型胃がんは、この分化が十分に進んでいない未熟な細胞ががん化したもので、一般的に、分化型胃がんに比べてがん細胞の増殖が速く、進行が速いと言われています。
ごく早期で、がんが胃の粘膜内にとどまっていれば、内視鏡治療が行われます。
「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」といって、内視鏡を入れて粘膜下層までを胃の内側から切除する方法です。
がんが進行して、粘膜下層にまで深さが達している、または未分化型胃がんで少し大きい場合、リンパ節転移の可能性があるため、外科手術が必要になります。
そのなかでも比較的早期であれば、手術後の胃の機能を温存する「縮小手術」という方法が選択されますが、3分の2以上の胃と少し離れたリンパ節まで切除するのが標準的な手術方法です。
がんがさらに進行し、CTなどの画像検査でリンパ節転移がはっきりわかるような場合は、抗がん剤治療を行ってから手術を行う方法(術前補助化学療法)も最近では選択されます。
手術の方法には、大きく2種類があります。ひとつは、昔から行われている「開腹手術」です。
お腹を30センチほど大きく切り開いて手術を行う方法です。
もうひとつが「鏡視下手術(腹腔鏡手術)」で、お腹に5か所ほど小さな穴をあけて、そこからカメラや鉗子(ハサミのような形をした手術器具)を挿入して手術を行う方法です。
現状、開腹手術のほうが標準手術ですが、胃がんでは腹腔鏡手術がかなり普及していて、「胃癌治療ガイドライン」では、ステージ1の患者さんに対しては腹腔鏡手術も「日常診療の選択肢となりうる」とされています。
実際、腹腔鏡手術を行える医療機関では、ステージ1の胃がん患者さんのほとんどが、開腹手術ではなく腹腔鏡手術を受けていると思います。
しかしながら、進行がんに関する腹腔鏡手術の有効性はまだ確認されていません。
腹腔鏡手術は手術後の痛みが小さい、回復が早いといったメリットはありますが、進行胃がんに対して腹腔鏡手術を行うのは少し慎重でなければなりません。
さらに、腹腔鏡手術を発展させたのが「ロボット支援手術」です。
先進医療として2017年まで試験が行われ、その結果が非常に良好だったため、現在、保険収載に向けて手続きが進められているところです。
今後、保険診療で行えるようになれば、腹腔鏡手術と同じように、早期胃がんに対してはロボット支援手術も選択肢のひとつになるでしょう。
※2018年4月より保険収載
手術後に詳細な病理診断結果が出るのですが、その結果、ステージ2またはステージ3であれば、「術後補助化学療法」が行われます。
つまり、再発を抑えるために手術後に化学療法(抗がん剤治療)を行うのです。
最新のガイドラインでは、ステージ2の場合は「TS-1」という抗がん剤の単剤療法が、ステージ3の場合は「カペシタビン」と「オキサリプラチン」という抗がん剤の併用療法が推奨されています。
ただし、最近行われた臨床試験で、「TS-1」と「ドセタキセル」という抗がん剤の併用療法が、TS-1単剤よりも優れた効果を示したことが報告されたので、今後、ステージ3の術後補助化学療法に関しては、「TS-1」と「ドセタキセル」の併用療法が標準治療になっていくでしょう。
胃がんは、早い段階で見つかれば、胃を切除しなくても治る時代になっています。
検診で発見された胃がんの場合、80%以上が治るのです。ですから、症状のないうちにぜひ胃がん検診を受診していただきたいと思っています。
また、進行度によって治療方針が大きく変わります。昔は胃切除という方法しかありませんでしたが、今は、内視鏡治療、腹腔鏡手術、開腹手術、術前術後の補助化学療法など、さまざまな選択肢があります。
だからこそ、ご自身にとってどんな治療がもっとも適切か、主治医の先生と相談して決めてください。
その際、エビデンス(科学的根拠)のない治療、標準治療ではない方法を選択するのはプラスにはなりません。
くれぐれもよく相談して選択していただきたいと思います。