腹腔鏡手術のメリットは、体への侵襲(ダメージ)が少ないことです。
開腹手術では、お腹を開けて大気に晒し、臓器を手でさわります。
そのことが、おそらく体にダメージを与えていたのでしょう。
小さなキズから治療器具を体内に挿入して手術を行う腹腔鏡手術では、あきらかに回復が早いのです。
一方、腹腔鏡手術の弱点は、直線の棒を体内に入れて操作するので、どうしても動作制限があることです。
また、体内にカメラを入れますが、一度に見える範囲は限られます。
腹腔鏡手術に次いで出てきたのが、ロボット支援手術です。
手術支援ロボットのアームの先端に取り付けられた手術器具は非常に多関節で、あらゆる方向に回せます。
そして、手振れ防止機能もあります。
ただし、誤解していただきたくないのは、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術の3つは、アプローチの違いであって、手術内容はまったく同じであることです。
患者さんのなかには、開腹手術よりも腹腔鏡手術、腹腔鏡下手術よりもロボット支援手術のほうが高度な手術だと思っている方がいますが、実際はそうではありません。
胃がんの手術における腹腔鏡手術と開腹手術の割合は、全国統計でも半々くらいになってきました。
今、腹腔鏡手術は、ガイドラインでは早期がんと進行がんの一部に対してのみ認められていますが、今後の臨床試験の結果次第で、進行がんにも推奨されるようになるかもしれません。
また、2018年4月より、ロボット支援手術の保険適用が広がり、胃がんのロボット支援手術も保険が認められるようになりました。
ですから、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術のなかから、患者さんのご希望や施設の状況によって選択すればいいと思います。
今後は、後輩の育成がとても大切であり、私自身の一番の役割もそこにあると考えています。
腹腔鏡手術は難しい手術ですが、時間とともに技術は発展していくものです。
このことは、開腹手術においてもまったく同じです。
ところが、腹腔鏡手術は学会が技術認定を行っていますが、開腹手術においては技術認定もなければ、学会が統括して手術方法を議論しているわけでもありません。
そうした仕組みをつくる前に、全国各地でいろいろな方法が編み出されたため、各々でアプローチが違うのです。
そのため、ある病院では「良い」とされる方法が、別の病院では「良くない」とされることもあります。
ただし、消化器外科学会のデータを見ると、開腹手術の成績は以前に比べて良くなっています。
それは、腹腔鏡手術やロボット支援手術によって体内を拡大して見られるようになり、いろいろな解剖が明らかになったことで、より無駄のないアプローチができるようになったからです。
つまり、腹腔鏡手術のメリットが、開腹手術にもいかされているのです。
その結果、開腹手術も新しい段階に入っています。
少なくとも当分は開腹手術も腹腔鏡手術も両方できないといけませんから、これからの外科医は両方を研鑽する必要があると思います。