今、胃がんの治療は非常に専門化されています。
そのため、多くの患者さんが専門病院や大きな病院に集まる傾向にありますし、医療設備が整っている病院は限られています。
胃がんの精密検査を受ける、治療を受ける病院を選ぶ際、基準の一つになるのが、「がん診療連携拠点病院」です。
がん診療連携拠点病院に指定されている病院は、診療体制も設備も一定以上整っています。
胃がんの治療は大きく分けると、軽いものから順に、内視鏡治療、手術治療、化学療法(抗がん剤治療)があります。
ただ手術治療も、最近では腹腔鏡手術が非常に増えていて、体への侵襲(ダメージ)は少なくなってきています。
また、2018年4月から胃がんに対するロボット支援手術も保険適用になりました。
このように手術と一言で言っても、いろいろな種類があります。
このうち、内視鏡治療の対象となる胃がんは、深達度が「T1」と分類される、粘膜(粘膜とその下の粘膜下層)に留まっているがんです。
ただし、内視鏡治療の対象も徐々に拡大されてきています。
今でも手術が胃がんの治療の中心であることは間違いありません。
手術治療は、通常、粘膜下層以上に進行した胃がんで、遠隔転移がないものが対象になります。
さらに現在では、ステージ4と診断されて抗がん剤治療を行い、ステージを下げて(ダウンステージ)から手術を行う場合もあります。
日本の胃がん手術は、長らく世界をリードしてきました。というのは、日本は胃がんの発生率が高い国だったので、技術が非常に発展したのです。
この10年のいちばん大きな変化は、やはり腹腔鏡手術の登場でしょう。
胃がんに対する腹腔鏡手術も、1991年に日本で初めて行われました。
腹腔鏡手術は非常に優れた手術であり、ほぼ完成の域に達していると言えるでしょう。
ただ、一つだけ問題があります。それは鉗子がまっすぐであることです。
胃がんの手術では、胃のまわり、とくに膵臓を越えてリンパ節を郭清しなければいけません。
その際、まっすぐな鉗子ではどうしても膵臓を圧迫してしまい、動作に制限があります。
また、人間の手は常に生理的な震えがあり、完全に消し去ることはできません。
前述の腹腔鏡手術の欠点を補完するものとして、ロボット支援手術があります。
手術支援ロボットのアームの先端に取り付けた鉗子には関節があり、曲げたり回転させたりすることが可能です。
また、手の震えをコントロールするシステムもあり、非常に精密で正確な手術を行うことができます。
ただ、ロボット支援手術も良いことばかりではなく、現状ではロボット自体が非常に高価で、かつ、腹腔鏡手術で使えるような優れた手術器具のラインアップが不足しています。
ロボット支援手術は、まだ発展途上段階でしょう。
今後10年、20年経つと、よりコストバランスが良く、コンパクト化され、さまざまなエネルギーデバイス(高周波や超音波などのエネルギーを使った手術器具)もラインアップされた優れた手術支援ロボットが登場するのではないかと期待しています。
そうすれば、胃がんの治療もさらに大きく変わるでしょう。
今後は、胃がんをはじめ、がんの手術はどんどん個別化、専門化されていき、一人ひとりの患者さんにいちばん適した手術を選択していく時代になると思います。