卵巣がんの抗がん剤治療は進化した

分子標的薬
がんの治療は、年々進化しています。卵巣がんの治療も同じで、新しい抗がん剤が次々と開発され、副作用を抑える治療も進み、その結果、治療成績も良くなっています。 新しく登場した抗がん剤や、気になる副作用、妊娠の可能性について、兵庫県立がんセンター 腫瘍内科の松本光史先生にうかがいました。

抗がん剤治療と吐き気

抗がん剤と聞くと、吐き気に苦しめられるイメージがいまだにあるでしょう。

 

でも、最近では、抗がん剤自体が治療効果はほぼ同じでより副作用が少ない、吐き気が少ない薬に置き換わっていますし、吐き気止めの薬も、NK1(ニューロキニン1)受容体拮抗薬という系統のものなど、さまざまな薬が開発されています。

 

また、吐き気そのものに対する理解も進みました。

制吐療法(吐き気を抑えるための治療)のガイドラインでは、吐き気の起こしやすさによって、抗がん剤を4段階に分けています。

 

たとえば、カルボプラチンを使う治療は、以前は上から2番目の扱いでしたが、研究が進んだ結果、いちばん吐き気を起こしやすいものに分類されるようになり、「吐き気止めをすべてしっかり使いましょう」と、ここ1、2年でガイドラインが変わりました。

 

卵巣がんに対する新しい抗がん剤

新しい抗がん剤は次々に登場しています。卵巣がん治療では、最近「オラパリブ」という新しい薬が登場しました。

これは、PARP阻害剤というタイプの薬です。

 

BRCA遺伝子変異と言って、誰もが生まれつき持っている“遺伝子を修理する遺伝子”の機能が、ほかの人よりも生まれつき低くなっている方のがんの治療薬として有望視されています。

 

さらに、卵巣がんのなかでもっとも多い組織型である「漿液性腺癌」というタイプの卵巣がんでは、およそ半分の患者さんが、BRCA以外のいろいろな遺伝子の働きが変化していることがわかっています。

 

こうした患者さんは、生まれつきの体質であるかないかに問わず、前述のPARP阻害剤という系統の新しい薬の効果が出やすいという研究結果も出ています。

 

卵巣がんで妊娠はできるのか

卵巣がんは、40代から増え、60代前半がもっとも多いのですが、なかには若年でなられる方もいます。

そうすると、「妊娠ができるのか」という妊孕性も気になるでしょう。

 

1A期や1B期といった比較的早期で、片方の卵巣のみにがんができていて、子宮などのお腹の中にはがんが広がっていない状態であれば、がんになったほうの卵巣・卵管のみを取り、子宮ともう片方の卵巣は残すことで妊孕性を温存する治療法もあります。

 

その代わりに、目には見えない転移がある可能性は否定できないので、抗がん剤治療はしっかり受けていただいて経過観察を行う臨床試験が、いま、日本で行われているところです。

 

2期以上の方、1期でも1C期の患者さんの一部の方は難しいのですが、もし1期と言われた場合には、試験的な方法も含めて妊孕性を温存するチャンスがあるのかどうか、主治医の先生にご相談いただくことをおすすめします。

 

これから卵巣がんの治療を受ける方へ

卵巣がんの治療は、手術も薬物療法もどちらも大事です。

 

手術にしても薬物療法にしても「怖い」と思うかもしれませんが、昔に比べると、卵巣がんの治療成績はかなり改善しているので、手術も手術前後の治療もしっかりがんばって受けていただくメリットはかなり大きいと思います。

 

どこでどういう治療を受けたらいいのか、悩まれたときには、患者さん向けにわかりやすく書かれたガイドライン(『患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン』)が出ているので、ぜひお手に取って見てください。

 

臨床試験で評価されて勝ち残っている「標準治療」はどういう治療なのか、ご確認いただければと思います。

また、主治医の先生に、ご自身の病気の診断それに対する標準治療参加できる可能性のある臨床試験の3つは、ぜひご確認ください。

 

大事な治療ですから、主治医の先生以外の意見、つまりはセカンドオピニオンを求めてもいいでしょう。しっかり納得のいく状態で、前向きに治療をはじめていただければと思います。

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