直腸がんは、開腹手術でも術者の技術の差が大きく出やすいがんです。
直腸がんの再発でもっとも多いのが、骨盤内の再発。
その最大のリスクはステージ(病期)であり、進行した直腸がんほど再発が多いのですが、その次のリスク因子は「どこで治療を受けたか」「誰に手術されたか」と言われています。
直腸がんの開腹手術が難しいのは、直腸は骨盤に囲まれた狭い場所にあるため、よく見えないからです。
その点、腹腔鏡手術は、狭いところが得意です。小さなカメラを奥まで入れて、拡大して見ることができます。
また、手術にかかわるメンバーみんなで見られることも大きなメリットです。
ただし、がんの近くを何度も触れるため、非常にデリケートな手術が必要になります。
直腸がんの手術で皆さんが気にされることのひとつが、「肛門から排泄する機能を温存できるか」でしょう。
他の病院で「肛門は残せません」と言われた患者さんでも、なんとか残せることはあります。
ただし、手術をする前とまったく同じ状態の肛門を残せるわけではありません。
このことは患者さんにも必ずお伝えします。
直腸をほとんど取って、上の結腸を肛門につなぐため、どうしても便が緩くなり漏れてしまったりするのです。
そもそも、直腸の手術では、排便回数が増えるなどの後遺症はほぼ避けられません。
「こんなに排便が大変なのだから、人工肛門にしたら」と言っても「絶対に嫌です」とおっしゃる患者さんもいれば、逆に、「あなたなら肛門を残せますよ」と言っても「私は毎日外に出ていろいろなことをしたい。トイレに駆け込むのは嫌なんです」
とおっしゃってあえて人工肛門にする方もいました。
選ぶ権利は患者さんにあります。
「肛門を残さなくていい」とおっしゃった患者さんの一人は、外出が多い仕事の方でした。
また、肛門を残したうえで一時的に人工肛門を作ることもありますが、「肛門をよい形で残せたので、いつでも閉じられますよ」と言ったら、「人工肛門にもう慣れてしまったので結構です」と断られたこともありました。その方は、山登りが趣味でした。
人工肛門は、外見上のデメリットはありますが、トイレに駆け込んだり、漏れてしまったり、オムツをしたりといった排便障害はありません。
ですから、人工肛門になっても、決して生活の質が悪くなるわけではないのです。
むしろ、人工肛門にされた方のほうが、休日に外出する割合が多く、外出時間も長く、逆に肛門を残された方のほうが休日にトイレにこもりがちといったデータもあります。
こうした事実もしっかりお伝えしたうえで「安全に残せる範囲は残しますが、それなりに苦労もありますよ」とお伝えして、治療方針を決めてもらっています。
それでも、やはり「残せるなら残してほしい」とおっしゃる患者さんが多いですね。
肛門をきわどいところで残すには、高度な技術が必要です。
治る方法があるのなら、まずは治すことを第一に考えてください。
そのうえで残せるのなら残しましょう。患者さんにもいつもそう説明しています。
直腸がんのなかでもとくに肛門に近い部分の直腸がんは、やはり専門病院のほうが、経験数が多く、いろいろな方法も持っています。
放射線治療や抗がん剤治療を交えるなど、補助療法も重要ですから、がんの専門病院などで一度意見をうかがうことをおすすめします。
セカンドオピニオンだけではなく、サードオピニオンを求めてもいいでしょう。
手術は1回しか受けられませんから、よく考えて病院を選び、治療を受けるべきだと思います。