ヘリコバクターピロリ(以下、ピロリ菌)は、感染すると胃の粘膜に住みつく細菌です。
除菌せずにピロリ菌感染が長期にわたると、胃の粘膜を防御する力が弱まり、胃炎を起こしやすくなります。
ひとたび胃炎を起こすと、消化管潰瘍やリンパ増殖性疾患などにつながる可能性があります。
また、ピロリ菌に感染した人の8割〜9割は慢性萎縮性胃炎を起こし、そのうち一部の方は胃がんを発症することが知られている疾患です。
ピロリ菌は、ほとんどが小児期(特に0歳〜5歳くらいまで)に感染します。
成人の場合は、ピロリ菌に感染しても胃酸や免疫力の働きによって自然に排出されることが多いです。
感染経路は、親から子どもへの食べ物の口移しなどによる「家庭内での経口感染」が最も多くなっています。
その他にも、水や食品を介した「水系感染」や保育園などでの「施設内感染」、消毒が不十分な医療行為による「医原性感染」などもあります。
国内でのピロリ菌の感染は、高齢者に多く、年齢が若くなるほど少ない傾向があります。
この背景の一つは、上下水道などの衛生環境が整っていなかったことです。
たとえば、井戸水をよく使用していた世代ではピロリ菌感染が多くありました。
近年では衛生環境がよくなっているため、日本人の感染率は現在3割程度ですが、20〜30年後には1割程度に減少すると予測されます。
ピロリ菌に感染しても症状が出ない人がほとんどです。
ピロリ菌感染によって胃炎をはじめとした疾患を起こした場合、胃もたれや胃痛・食欲不振などの症状が現れることもあります。
ピロリ菌の感染を早期に見つけるためには、定期的に健康診断を受けていただき、気になる症状がある人はお近くの病院でご相談ください。
検査には、内視鏡を使って組織を採取する「侵襲的な検査」と内視鏡を使わずに身体への負担が少ない「非侵襲的な検査」があります。
侵襲的検査には、内視鏡で採取した組織の調べ方によって3つの方法があります。
ピロリ菌がもつウレアーゼ酵素を用いて調べる「迅速ウレアーゼ試験」。
特殊な検査液で染色してピロリ菌の有無を確認する「鏡検法」。
ピロリ菌を培養して確認する「培養法」は、スタンダードな検査であり、効きやすい抗菌薬を確かめる感受性試験にも有用な方法です。
非侵襲的な検査には3つの方法があります。
呼気を調べる「尿素呼気試験」は、除菌判定によく用いられる検査法です。
血液や尿・唾液などを検査してピロリ菌感染後の抗体があるかを調べる「抗体測定」は、スクリーニングに適しています。
便の中にピロリ菌がいるかどうかを調べる「便中抗原測定」も精度の高い検査です。
それぞれの検査によってメリット・デメリットがありますので、担当医と相談しながら検査を受けることをおすすめします。