腎臓がんの治療法は、腫瘍の大きさやステージ(病期)によって変わります。
治療法にはいくつかあり、まず「経過観察」という方法があります。つまり、腫瘍が大きくなるまで経過をみるという方法です。
まだ一般的ではありませんが、欧米では今、普及しつつあります。
腎臓がんは、年間に3ミリから5ミリ程度ずつ大きくなると言われていて、成長のスピードが非常にゆっくりなのです。
ですから、腫瘍が転移をするような大きさになるまでに他の病気で亡くなる可能性が高い方、超高齢の方の場合、手術をするよりも何もせずに経過をみることが選択される場合もあります。
完治をめざした治療で最も効果が高いのが、やはり手術です。
その方法には、腎臓を片方まるごと取る「根治的腎摘除術」と、腫瘍のある部分だけを切り取る「腎部分切除術」があります。
また、薬物治療では、最近分子標的薬が登場し、日本では現在6種類の分子標的薬を使えるようになりました。
以前は、「インターフェロンα」や「インターロイキン-2」という薬を使った「サイトカイン療法」が、腎臓がんに対する薬物治療の主流でした。
これは免疫にかかわる細胞やタンパク質を活性化させる免疫療法のひとつです。
このサイトカイン療法に比べて、分子標的薬を使った薬物治療では、全生存期間が約1年延びることが報告されています。
さらに、2016年8月には、「ニボルマブ(製品名オプジーボ)」という免疫チェックポイント阻害剤が、転移性腎がんや切除ができない腎臓がんに対して使えるようになりました。
これによって半年ほど予後が延びると言われ、治療成績は確実に良くなっています。
ただし、残念ながら薬物治療のみで完治する方はまだ少ないのが現状です。
そのほか、がんの治療法には放射線治療もありますが、腎臓がんの場合はあまり有効ではありません。
腎臓がんにおいて放射線治療を行うのは、骨に転移したときに痛みを和らげるための緩和的照射のみです。
腎臓がんで完治をめざす治療法として、第一選択肢となるのが手術です。
片方の腎臓をまるごと取る「根治的腎摘除術」は、1960年代から標準治療として行われてきました。
しかしながら、腎臓を片方取り除くと、腎機能は7割くらいに下がってしまいます。
最近では、腎機能の低下や腎障害が慢性的に続く状態のことを「慢性腎臓病」と言い、心筋梗塞や脳卒中といった心血管病が起こりやすくなることが知られています。
根治的腎摘除術で腎臓を片方取ると、多くの患者さんが慢性腎臓病の範疇になってしまうので、がんは治っても、他の病気を引き起こし、命にかかわる可能性があるのではないか、と指摘されるようになりました。
そこで、がんができた部分のみを切り取る「腎部分切除術」が行われるようになったのです。
腎部分切除術では、腎機能の低下は1割程度にとどめることができます。
その結果、慢性腎臓病になる可能性を減らし、ひいては心血管病のリスクを抑えることができると考えられています。
特に、がんの大きさが7センチ以下で腎臓内にとどまっている「ステージ1」の腎臓がんでは、腎部分切除術で手術を行うことが一般的です。
さらに、腎部分切除術をより体にやさしく行う方法として、腹腔鏡手術があります。
お腹を小さく切開して、そこから細長い手術器具とカメラを挿入して手術を行う方法です。
体にやさしい低侵襲手術として注目されていますが、腎臓がんにおいては、腎臓を切り取ったあとに血管や尿路をていねいに縫合しなければいけません。
その切り口を縫う操作が非常に難しく、繊細な技術を要するため、腹腔鏡手術のネックになっていました。
そこで使われるようになったのが、手術支援ロボット「ダヴィンチ」です。2016年4月から、腎臓がんの手術でも保険適用となりました。
「ダヴィンチ」は、三次元画像を見ながら操作を行えるので、体内の空間を立体的に認識することができます。
腫瘍を切除する際も、開腹して肉眼で見る以上に、近くで確認し、血管や尿路がどう走っているのかを正確に判断することが可能です。
そのため、余計な損傷を防ぎ、かつ、腫瘍を正確に切り取ることができます。
また、通常の腹腔鏡手術では難しかった血管や尿路の縫合も、「ダヴィンチ」を用いるとスムーズに行えます。
こうしたことから、これまでは開腹手術でなければ難しかった腎臓がんに対しても腹腔鏡で行えるようになりました。
現状、私たちの病院では、ステージ1の患者さんの7割から8割の方に対して、ダヴィンチを使った腹腔鏡手術で部分切除を行っています。
このように、腎臓がんの手術は、「腎機能を守る」「侵襲を少なくする」という2つの意味で、より体にやさしい方向に進化しています。