食道がんは、食道の表面の粘膜から発生します。
粘膜に留まっているがんは、内視鏡治療で取れますが、粘膜を越えて少し深く食い込んでくると、手術が主体となります。
また、手術でがんを取り切れるもののリンパ節転移を伴うなど、ある程度進行している場合は、術前化学療法と言って、事前に抗がん剤治療をしてから手術を行うことが主流です。
「手術以外の方法はありませんか?」と聞かれる患者さんは多いのですが、放射線治療と抗がん剤治療の組み合わせ(放射線化学療法)よりも、手術でがんを取り除くほうが治療成績は良いことがわかっています。
そのため、ステージ2、ステージ3の食道がんは、手術に術前化学療法を加えるなど、「手術+α」の治療が中心になります。
ステージ4になると、薬物療法が主体になります。
あるいは、食道のまわりにある気管や心臓などの重要な臓器にがんが浸潤している場合は、放射線を当ててがんを小さくすることが一般的です。
食道の手術は、あらゆる手術のなかでももっとも大掛かりな手術のひとつです。
手術後の合併症も多く、日本で4割、アメリカで5割、オランダでは6割の方が、食道がんの手術後に何らかの合併症を起こしているというデータがあります。
そこで登場したのが、小さなキズから胸腔鏡を入れて手術を行う胸腔鏡手術です。
従来の胸を大きく切り開いて行う開胸手術に比べて、体への侵襲(ダメージ)が小さく、術後の合併症、とくに呼吸器の合併症を減らせるのではないかと期待されましたが、あまり減っていないことがここ数年でわかってきました。
それは、肺への負担がまだ大きいのだと思います。
そこで我々は、胸を経由せず、首とお腹からのアプローチのみで従来と同じ食道がんの手術ができる方法を採用しています。
首から「縦隔鏡」という器具を使い、お腹からは手術支援ロボット「ダヴィンチ」のロボットアームを入れて、リンパ節、食道を切り取ります。
胸を経由しないこの方法では、手術中に片方の肺をつぶしたり、肺を取り巻く胸膜をやぶる必要がありません。
従来、食道がんの手術後には15~20%の割合で肺炎が起きると言われていましたが、我々のところでは、その新しい手術方法で78人に受けていただいて1人しか肺炎は起きていません。
また、胸の痛み、傷もなく、手術後のQOL(生活の質)も良好です。
2018年4月の診療報酬改定改定で、縦隔鏡下食道悪性腫瘍手術に保険が認められるようになり、ロボット支援手術による胸腔鏡食道悪性腫瘍手術も保険適用になりましたから、今後、全国的に普及していくと思います。
食道がんは難治がんの一つと言われますが、ステージ1、2の段階で発見されれば、5年生存率は7、8割です。
ですから、やはり早期発見が大切。
また、長生きできる場合は、その後の生活の質も重要なので、患者さんの負担をできるだけ小さくし、手術後のQOLを維持できるような手術が大事です。
残念ながらある程度進んでしまったステージ3、ステージ4で見つかった場合は、手術のみで治すことは難しく、放射線や抗がん剤など、いろいろな治療を組み合わせた集学的治療が必要になります。
いかにうまく組み合わせていくかは、やはり専門的な施設で診ていただくのが一番大事だと思います。