食道がんの内視鏡治療で大切なこと ―がんの深さー大きさと治療後の管理ー

低侵襲
内視鏡治療
EMR
ESD
食道がんの外科手術は、胃がんや大腸がんなどの消化器がんの手術のなかでも最も侵襲が大きいと言われています。そこで最近では、体にやさしい「内視鏡治療」で対応可能なケースが増えています。どのような食道がんであれば内視鏡治療が可能なのでしょうか。そして、治療を任せる病院を選ぶうえで大切なこととは――。埼玉医科大学国際医療センター 消化器内科の野中康一先生にうかがいました。

●東京女子医科大学 消化器内視鏡科HP:http://twmu-gastro-endosc.jp/

 

食道は四層にわかれている

食道がんを取り除くには、内視鏡治療と外科手術の2とおりがあります。

より侵襲が少ないのが内視鏡治療ですが、内視鏡治療の対象となる食道がんは限られています。

その際、カギとなるひとつが、“がんの深さ”です。

 

食道は、内側から「粘膜」「粘膜下層」「固有筋層」「外膜」と4つの層にわかれています。

そして、粘膜はさらに「粘膜上皮」「粘膜固有層」「粘膜筋板」と3つに分けられます。

 

多くの食道がんは、粘膜上皮から発生し、大きくなるにつれて、粘膜下層、固有筋層……と深さを増していきます。

がんが粘膜上皮あるいは粘膜固有層までの深さにとどまっていれば、リンパ節転移はほとんどないと考えられ、内視鏡治療が可能です。

 

一方、粘膜筋板、粘膜下層にまで広がっていると、リンパ節転移の可能性があるので、内視鏡治療の適応を超え、外科手術か抗がん剤治療(化学療法)が必要というのが、これまでの常識でした。

 

ところが、最近では粘膜筋板までの食道がんであればリンパ節転移はほとんどないことがわかってきて、内視鏡治療の適応が少し広がっています。

 

つまり、粘膜内(粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板)にとどまっている食道がんであれば、まず内視鏡治療を行い、その後、病理学的に評価し、転移があるかどうかを判断して追加治療を行う――という流れになります。

 

食道がんの大きさと内視鏡治療の適応

もうひとつ大事なのが、“がんの大きさ”です。

 

以前は、がんが食道の3分の2周以上を占めると、内視鏡治療の適応外とされていました。

なぜなら、あまりに大きい食道がんを内視鏡で取ると、治る過程で食道が収縮し、狭窄を起こしてしまい、食事も水も摂れなくなることがあるからです。

その結果、外科手術が必要になることもあります。

 

ただ、最近では内視鏡治療後の狭窄を予防する方法が確立されてきました。

そのため、大きさだけに関して言えば、3分の2周以上でも、ひいては全周性のがん(がんが食道の全周に及ぶがん)でも内視鏡で取れる時代になっています。

 

食道がんは内視鏡治療後の管理が大切

ここで、重要なのが、「内視鏡治療後の狭窄予防の管理までできる病院、医師なのか」です。

以前は、内視鏡治療後に狭窄が起きた場合、内視鏡を狭窄した部分まで入れてバルーン(風船)を膨らませるという「内視鏡的バルーン拡張術」を行うしかありませんでした。

 

ところが、この方法では、1週間もすると再び狭窄を起こしてしまい、半年から1年間、毎週のように内視鏡的バルーン拡張術を繰り返さなければいけないのです。

 

それは、患者さんにとってつらいですよね。QOL(生活の質)も下がり、仕事を続けることも難しくなるでしょう。

そこで、いま行われるようになってきたのが、ステロイドを注射して狭窄を予防する方法です。

じつは、このメカニズムを世界ではじめて解明したのが私です。

 

内視鏡治療後の傷にステロイドを注射したり、ステロイドの内服薬を併用したりすることで、食道の全周に及ぶような大きな食道がんでも、狭窄を起こさず、患者さんの生活も変えずに内視鏡で治療を行えるようになってきました。

ただし、現状では、どこの病院でもできるわけではありません。

 

日本人の内視鏡医の技術は世界でもトップクラスなので、どこの施設でも、ある程度大きな食道がんでも内視鏡で取れるようになってきていますが、その後の管理までできるところはまだ限られています。

 

病院を選ぶときには、ぜひその視点も大切にしていただきたいと思います。

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