肝臓移植という選択肢

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肝硬変や肝臓がんなどで治療を受けたものの治らない場合に、肝臓移植という方法があります。移植と聞くと、大がかりな手術という印象がありますが、保険が適用されるようになり、治療の選択肢の一つとして一般的に行われるようになってきました。 肝臓移植とはどのような治療なのか、長崎大学病院 移植・消化器外科の江口晋先生に教えていただきました。

肝臓移植の適応となるのは

 

肝臓移植(肝移植)は、いろいろな治療を受けられた後、ほかに代替の治療法がない患者さんの最終手段となる治療です。

 

肝移植の適応疾患
肝移植の適応疾患

 

大人の場合、肝硬変や肝臓がん、あるいは急に肝臓が悪くなる劇症肝炎、胆管の特殊な病気である原発性胆汁性胆管炎や原発性硬化性胆管炎などが、肝移植の適応となります。

 

小児の場合、先天性のご病気が多く、胆管がもともと少ないまたはない胆道閉鎖症、あるいは先天的に肝臓のある酵素が欠損し黄疸があったりアンモニア濃度が高くなったりする代謝性の肝疾患の子どもさん、赤ちゃんが適応になることが多いです。

 

 

脳死肝移植と生体肝移植

 

肝移植には、「脳死肝移植」と「生体肝移植」の2種類があります。

 

脳死肝移植と生体肝移植
脳死肝移植と生体肝移植

 

一つ目の脳死肝移植は、脳死状態になった方が生前に臓器提供の意思表示をされていたり、ご家族が同意されたりした場合に、肝臓を含めいろいろな臓器を摘出させていただいて、命のリレーという形で別の患者さんに移植するものです。

 

この場合、すべての肝臓を移植することが一般的です。

 

生体肝移植は、健康なドナーから肝臓をいただく方法です。

ドナーになれるのは、自発的な意志があるご親戚の方(原則、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)です。

 

肝臓が悪くないか、がんがないか、感染症がないかなど、医学的な検査を行い、安全性が担保できることを確認した上で、肝臓の一部をいただいて病気の方に提供します。

 

その際、本当に適応があるのか、ドナーの方ご自身の意志があるのかはいろいろな角度から評価しなければなりません。

 

医師に話しにくいことがあれば、看護師さん、そして移植コーディネーターさんに話をしてもらい、無理のない範囲で治療を行う必要があります。

また、生体肝移植では、ドナーの方自身の肝臓を残さなければいけないので、当然、部分肝移植になります。

 

 

肝移植後の5年生存率は

 

手術成績は、脳死肝移植も生体肝移植もほぼ同じで、5年生存率が約70%、10年生存率が約60%です。

 

移植は大がかりな手術ですが、それを乗り越えると、長期の生存が見込めます。

 

肝移植を受ける患者さんのほとんどは、黄疸が出たりお腹に水がたまったり、病気によって日常生活が妨げられている方ですが、移植を受けて元気になると、本当の意味で日常生活が戻ることが多く、「大がかりだけれど、力の強い治療」と言われています。

 

 

肝移植後の拒絶反応とは

 

移植後は、一卵性の双子の移植以外は、大なり小なり「拒絶反応」という免疫反応が起こります。

それを抑えるために、現在は免疫抑制剤という薬を飲んでいただいています。

 

ただし、軽度から中等度の拒絶反応であれば、自覚症状はほとんどありません。

 

検査で肝機能の異常がみられる程度です。重度の拒絶反応になると黄疸が出るなどの症状が出ますが、通常は検査値の異常のみです。

 

移植後、3か月から半年程度は拒絶反応が起こりやすい時期なので、その間は1、2週間おきに密に外来に来ていただき、その後はだんだん頻度を減らして、免疫抑制剤の血中濃度を見ながら、薬の量を減らしていきます。

 

 

肝臓移植を希望される方へ

 

最近では肝移植が保険適用になり、治療の選択肢の一つとして行われるようになってきました。

 

肝移植を希望される方、検討される方は、まずはかかりつけの先生に相談してください。

あるいは、当院のような肝臓移植を行っている施設(移植施設)を紹介してもらうか、直接来ていただいても構いません。

 

空振りでも構いませんので、移植の可能性がある方は、一度ご相談に来ていただければと思います。

 

※全国の移植施設は、「日本臓器移植ネットワーク」のホームページで紹介されています

https://www.jotnw.or.jp/index.html

 

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