放射線療法の一つ、陽子線治療とは?ー肝がんの陽子線治療のメリットについてー

低侵襲
陽子線治療
がんの三大治療と言えば、手術・化学療法(抗がん剤治療)・放射線治療の3つですが、そのうちの放射線療法のひとつに、「陽子線治療」があります。 陽子線治療とは、従来のX線やγ線を使った放射線治療とはどう異なるのでしょうかーー。筑波大学附属病院 放射線腫瘍科の櫻井英幸先生に教えていただきました。

陽子線治療とは

 

陽子線治療とは、水素原子の原子核を使った治療です。

もっとも軽い原子である水素原子の原子核を、光の速さのおよそ60%~70%に加速したもの(=陽子線)を照射するのが、陽子線治療です。

 

粒子線の線量分布
放射線別の線量分布

 

陽子線治療も放射線治療の一つですが、最も一般的なX線とは異なり、陽子線には、人体のなかに入るとあるところで止まる性質があります。

X線の場合、体を通り抜けるため、照射したいターゲット(病気)の奥に、放射線をかけたくない臓器があっても、通り抜けてしまいます。

 

その点、陽子線は奥に抜けないので、強くかけてもまわりの組織に放射線がかかりません。

 

そのため、さまざまな疾患に使われていて、とくに、安全性を向上させたい場合や副作用を減らしたい場合、ある部分に放射線をたくさん集めて効果を増強させたい場合に利用されています。

 

 

陽子線治療の手順

 

診断が確定したら、まずCTを撮ります。その画像をもとに放射線をかける場所、かけたくない場所を考え、一人ひとりの患者さんごとに、「どのように放射線をかけるか」という計画をコンピューター上で作成していきます。

 

この準備に7日~10日ほどかかり、その間、2回ほど通院していただきます。

 

準備が整ったら、実際の治療に移ります。治療スケジュールは、病気によって異なり、2週間ほどで治療が済むこともあれば、少し広い範囲を治療する場合は2か月弱かけて治療を行うこともあります。

 

 

陽子線治療の対象となるがんとは

 

病巣の位置と大きさが非常に大事です。

陽子線治療の対象となる主な病気
陽子線治療対象となる主な病気

 

たとえば、肝細胞がんの場合、小さいものであれば、手術(肝切除)やラジオ波焼灼療法のほか、放射線治療もX線を使った定位放射線治療や粒子線治療、陽子線治療とさまざまな選択肢があります。

 

ところが、がんができている場所が悪かったり大きかったりすると、ほかの選択肢が難しいことがあります。

 

たとえば、大きな腫瘍はラジオ波焼灼療法ができず、手術が主体になりますが、全身の状態が悪かったり肝臓の機能が悪かったりして手術に耐えられない方もいらっしゃいます。

そういった方には、陽子線治療が良い選択肢になるでしょう。

 

また、肝細胞がんは、肝臓の中の血管に入りやすいという性質がありますが、血管の近くにあったり、血管のなかに入り込んだ腫瘍の場合、手術で切除することは難しいので、陽子線治療の適応になると思います。

 

 

陽子線治療を希望される方へ

 

陽子線治療を受けられる施設は、現在、国内に17か所あります。

 

日本の粒子線治療実施施設
日本の粒子線治療施設

 

 

現状では陽子線治療は先進医療という位置づけであり、保険診療になっていませんが、肝臓がんが専門の内科・外科の先生方には陽子線治療の実力を理解いただき、患者さんをご紹介いただけるようになってきました。

 

日本人の場合、肝細胞がんになる方の多くが、肝炎や肝硬変がベースにあるため、治療によって肝臓の機能を悪くしないことが非常に大切です。

 

陽子線治療は、非常に侵襲(体へのダメージ)が少なく、痛みもなく、副作用もおさえられる一方、治癒率は非常に高いので、優れた治療法だと考えています。

 

当施設に来られる肝臓がんの方の9割は再発の方で、初回治療で来られる方は、全身の状態が芳しくなく、手術やほかの治療が受けられない方がほとんどです。それだけ、陽子線治療は非常に低侵襲な治療であるということです。

 

先進医療とか、国内に17か所などと聞くと「行ってもすぐに診てもらえないんじゃないか」と思うかもしれませんが、決してそうではありません。

 

ぜひ足を運ばれて、正しい情報を直接お聞きになって、ご自身で選択されることが重要だと思います。

 

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