胃がんの抗がん剤治療の進化と分子標的薬

分子標的薬
免疫チェックポイント阻害剤
「抗がん剤」と聞くと、副作用のイメージが根強いかもしれません。しかし、抗がん剤の種類も増え、副作用のマネジメントの仕方も進み、普通の生活を続けながら治療を受けられるようになってきています。また、抗がん剤の進化によって、手術を受けられないがんにおいても、平均寿命は延びているそうです。 ここでは、胃がんにおける抗がん剤治療の現状について、国立がん研究センターセンター東病院 消化管内科の設樂紘平先生に教えていただきました。

抗がん剤の進化で延びる余命

 

抗がん剤がない時代には、手術ができない胃がんの場合、余命は3か月から半年と言われた時期もありました。

 

しかし、使える抗がん剤の種類が増えるのに伴い、半年から1年になり、さらに2年近くに……と、だんだん延びています。

 

胃がんの治療に用いられる主な薬剤
胃がんの治療に用いられる主な薬剤

 

従来の抗がん剤は、「非常に増殖が速い」というがん細胞の性質を利用し、細胞の増殖が激しいところに働き、攻撃するというものでした。

 

そのため、がん細胞のみならず、増殖スピードの速い正常な細胞にもダメージがありました。

 

 

分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤という新しい抗がん剤

 

そこで開発されたのが、がんの発生や増殖にかかわる特定の分子を狙って攻撃する「分子標的薬」です。

 

胃がんの分子標的薬の作用機序
胃がんの分子標的薬の作用機序

 

 

胃がんでは、「HER2(ハー・ツー)」というタンパク質が出ている患者さんに使える「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」があります。

HER2が陽性の患者さんは、胃がん患者さん全体の15%程度と多くはありませんが、該当する患者さんに使うと効果が高いことがわかっています。

 

「ラムシルマブ(商品名:サイラムザ)」という薬も、胃がんに使われる分子標的薬の一つです。

がん細胞は、がんのまわりに新しい血管をつくり(このことを「血管新生」と言います)、栄養を取って増殖していきます。

 

この際、「VEGF(血管内皮増殖因子)」が「VEGFR(血管内皮増殖因子受容体)」というレセプターにくっつくと血管新生が促されるので、VEGFRにフタをして新しい血管が作られるのを防ぎ、がんを兵糧攻めしようという薬です。

 

 

この薬には、がんのまわりの異常な血管を整えて、通常の抗がん剤の働きを高める効果もあります。

 

また、他のがんでもすでに使われている「ニボルマブ(商品名:オプジーボ)」などの免疫チェックポイント阻害剤も、胃がんで使われるようになりました。

 

免疫チェックポイント阻害剤
免疫チェックポイント阻害剤の仕組み

 

これらの薬を、適切に組み合わせ、適切な順番で使っていくことが重要です。

 

 

副作用のマネジメントも進化

 

抗がん剤の種類が増えただけではなく、副作用を軽くするなど、その使い方も進歩しています。

 

具体的には、吐き気止めの種類がこの数年間でだんだん増えました。

また、下痢止めの種類も増えましたし、がんによる痛みを緩和する治療も進化しています。

 

これらを組み合わせて痛みや不快な症状をおさえつつ、そして分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新しく登場した薬も含め、抗がん剤をうまく使い、抗がん剤以外の治療も組み合わせつつ、がんになる前に過ごされていたような生活を維持しながら治療も続けられるようになってきています。

 

 

慌てずゆっくり、がんとの共存をめざして、主治医の先生と協力して治療にのぞんでいただければと思います。

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