直腸は、肛門から10センチから15センチほどの部分です。
大腸のなかでは比較的短いものの、直腸にがんができる頻度は、大腸がん全体の30%ほどと、がんができやすい場所になります。
直腸がんの手術にはいくつかの選択肢がありますが、現状、中心となっているのは手術です。
直腸は、骨盤のなかの一番深いところにあるため、洞窟を掘るような、トンネルを掘るような手術になります。
とくに男性や骨盤が狭い方、がんが大きな方においては、トンネルを掘る工事がより難しくなる傾向があります。
また、直腸という臓器は、まわりに排尿や性機能などを司っている自律神経があるため、それらの神経を温存しながら、がんが転移しているかもしれない領域をきれいに取り除くことが要求されます。
直腸がんの手術は、従来は開腹手術がメインでしたが、近年、腹腔鏡手術が広く行われるようになってきました。
先ほど、直腸は骨盤の奥深いところにあると述べましたが、その暗くて深い、開腹手術では見えにくいところを、明るく照らし拡大して見ることができるのが腹腔鏡手術の特徴です。
そのため、大事な血管や自律神経をしっかり見極めながら、出血量も合併症も少なく手術を行うことが可能になります。
手術前に放射線治療や化学療法(抗がん剤治療)を行うこともあります。
術前治療は、もともとは欧米で広く行われてきた治療です。一方、日本のガイドラインは、術後の再発を防ぐにはリンパ節郭清を広くやりしましょうという方向でした。
最近では、日本でも手術前に放射線治療や化学療法を行い、できるだけ腫瘍を小さくしてから手術を行う施設が増えています。
腹腔鏡手術を行う立場としても、理にかなった治療だと思います。
ただ、今後データが増えてくると思いますので、きっちり評価していかなければいけません。
直腸の手術は、奥にいけばいくほど手技が難しくなります。
また、私たち人間の直腸は曲がっているので、奥のほうにいけばいくほど視野も悪くなります。
その問題を解決する方法として、最近行われるようになってきた一つが、お尻のほうから内視鏡や手術器具を入れて手術を行う「経肛門的全直腸間膜切除術 (TaTME:Transanal total mesorectal excision)」で、もう一つが、自由度の高い関節をもつ手術支援ロボットを使った「ロボット支援手術」です。
まず、経肛門的全直腸間膜切除術(TaTME)は、通常の腹腔鏡手術では見えにくいところに、反対側からアプローチすることによって光を当てるのが、一番のメリットです。
ただし、日本で行われるようになってまだ数年であり、TaTMEを行っている施設はまだ少なく、適応となる患者さんも比較的少ないのが現状です。まだまだ発展段階の手術方法なので、慎重に行わなければいけません。
そして、今一番注目されているのが、ロボット支援手術でしょう。2018年4月より、直腸がんに対しても保険適用になりました。
ロボットも進化していますし、肛門側から手術支援ロボットを使って経肛門的全直腸間膜切除術(TaTME)を行うという話も出ています。
今後、手術手技とテクノロジーがどんどん融合して、患者さんにとってより良い治療ができるようになるのではないかと考えています。