小児がんは成人のがんに比べて発生頻度が非常に低く、成人のがんの250分の1と言われています。
発症人数は日本全国で年間2000人から2500人ほどと少ないのですが、5歳から15歳までの間の死因で、不慮の事故に次いで2番目に多いのが小児がんです。
以前に比べて小児がんの治癒率は上がっており、最近では、およそ7割のお子さんが治ると言われています。
その背景には、小児がんのなかでも最も多い「白血病」が骨髄移植などで治るようになってきたこと、化学療法(抗がん剤治療)と放射線治療、手術の組み合わせが研究されて治る確率が高くなってきたことがあります。
もともと小児がんの治療は、白血病以外の固形がんでは、手術が主体となることが多かったのですが、最近では化学療法が非常に重要視されるようになってきました。
そして、化学療法を加えることで、予後(治療後の経過)が非常に改善されてきています。
そのため、化学療法を主に、そこに手術をどのタイミングで入れるか、放射線治療をどのタイミングで入れるか、と考えることが重要になっています。
放射線治療でもっとも一般的なのは「X線」です。
X線は、皮膚の表面から放射線を当てると、奥に進むにつれてだんだん放射線の量が下がっていきます。
一方、陽子線は、皮膚の表面から当てると、あるポイントで完全にストップすることが重要な特徴です。
つまり、そのポイントよりも奥に、たとえば不妊の影響になる精巣や卵巣、心臓などの重要な臓器がある場合、そこにまったく放射線を当てずに治療を行えます。
そのことがとても大きなメリットです。
効果に関しては、X線も陽子線も差はありません。
ただし、陽子線治療では放射線を当てたくない臓器にまったく当てないようにできるため、合併症を減らすことができることが重要です。
小児がんに限りませんが、放射線治療の合併症(治療の影響で起こる病気)には2つあります。
ひとつは、臓器の合併症です。
たとえば、放射線を照射した部分が障害されて起こる放射線肺炎や口内炎などが含まれます。
もうひとつが、二次がんです。
二次がんは、非常に少ない線量でもリスクが高まることがわかっています。
その点、陽子線治療は、放射線があたらない領域が増えるため、二次がんの発症率を下げることができます。
小児がんの患者さんが陽子線治療を希望される場合、主治医より紹介されることが増えています。
たとえば、私の勤める神戸陽子線センターは、隣に兵庫こども病院があり、血液内科医、小児科医、脳外科医、そして私たち放射線治療医、放射線画像診断医、病理医で議論する「腫瘍カンファレンス」を行っています。
そこで話し合い、陽子線治療の適応があると判断されれば、私たちの施設で陽子線治療を行うという流れになっています。
当院のほか、小児がんの陽子線治療の経験が豊富なのは、次の3施設です。
・筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センター(茨城県)
・国立がん研究センター東病院(千葉県)
・静岡県立静岡がんセンター(静岡県)
そのほか、北海道大学病院 陽子線治療センター、一般財団法人脳神経疾患研究所附属 南東北がん陽子線治療センター(福島県)、メディポリス医学研究所 がん粒子線治療研究センター(鹿児島県)でも行っています。
西日本は非常に少なく、兵庫県以西で小児がんの陽子線治療を多数行っているのは、神戸陽子線センターのみです。
(※平成28年4月より津山中央病院がん陽子線治療センターが治療開始)
小児がんは非常にまれな疾患ですが、患者会は充実しています。
それぞれの病気ごとに患者会があるので、各患者会にコンタクトをとると、いろいろな情報を得られるのではないかと思います。