遺伝性乳がん、いま実施されている薬物治療と予防的切除とは

一般的に乳がんは、食生活や環境の影響により発症する癌と考えられています。ところが、乳がんに罹った人の5〜10%に遺伝性乳がんがいることがわかっています。これは、同一家系のなかに乳がんを発症するリスクをもった人がいることにつながります。そこで、どのような遺伝子がリスクになり、どのような治療方法があるのかついて、乳がん治療のスペシャリストである昭和大学病院乳腺外科診療科長中村清吾教授に教えていただきます。

 

日本人にも欧米と同様に遺伝性乳がんが発症する

 

 

1994年と1995年に、遺伝性乳がんの原因となる遺伝子BRCA1※1とBRCA2※1が発見されています。

 

ここから注目されるようになった遺伝性乳がんの原因遺伝子ですが、最初は研究レベルでしか使われなかったのです。

その後、日本では健康保険で使われることがなく、なんの進展もないまま空白の20年ほどが過ぎていきました。

つまり日本人の遺伝性乳がんの実態について、なにもわからないままの状況が続きました。

 

しかし昭和大学病院では自費で行うことになりますが、日本人のデータを集めて実態を調査するために、2012年ごろからデータベースを作りはじめました。

 

 

日本における遺伝性乳がん遺伝子の比率

 

 

その結果、欧米と同様の頻度で遺伝性乳がんが発症していることがわかりました。

 

現在、この結果に基づいて予防対策と検診などを含めながら、国にいろいろな形での支援を要請しているところであります。

 

※1 EGFR1とBRCA2 :EGFR1とBRCA2の遺伝子には、がん細胞のたんぱく質を増殖抑制する働きがあります。つまり、EGFR1とBRCA2が変異を起こすと癌を増殖させるようになるのです。

 

 

家系に複数の乳がんと卵巣がんがいる方は要注意

 

 

遺伝性乳がんの遺伝子形式

 

 

当然のことながら遺伝性乳がんは、同一家系内に複数の乳がんと卵巣がんに罹った方がいる場合、リスクを疑うことになります。

 

また同様に男性でも、膵がんと前立腺がんの方が同一家系内にいるとリスクになると考えられています。

 

 

遺伝性乳がんのコンパニオン診断とPARP阻害薬

 

 

乳がんのサブタイプ分類

 

 

BRCA1という遺伝子変異で起こる遺伝性乳がんの7割〜8割が、トリプルネガティブ乳がんと呼ばれています。

 

トリプルネガティブ乳がんでは、ホルモン剤が効かない、抗HER2も使えないことから化学療法が中心になってきました。

しかし最近では、PARP阻害薬※2というBRCAに変異がある遺伝性乳がんの方に特徴的に効く分子標的薬が発売されました。

いまPARP阻害薬は、再発乳がんであるけれども保険適応になりました。

 

 

PARP阻害薬

 

 

現在、PARP阻害薬を使うための遺伝子を調べる遺伝子検査のことをコンパニオン診断※3と呼び、この診断が保険適応になりました。

 

※2 PARP阻害薬:商品名はリムパーザ錠。一般名がオラパリブ。PARP阻害薬は遺伝子変異によって増殖しているがん細胞を細胞死に誘導する分子標的薬です。乳がんの保険適応は「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」です。そのほかに卵巣がんの適応もあります。

※3 コンパニオン診断:コンパニオン診断は薬剤の標的となるたんぱく質を調べる検査です。このとき標的となるたんぱく質が発見されれば、薬剤の効果に期待がもて副作用も少ないと考えられています。

 

 

遺伝性乳がん治療後の予防対策とは

 

 

一般乳がんは単発で乳房に発生していることが多いのですが、遺伝性乳がんの場合、両側の乳房に癌が発生しているケースと最初は片側の乳房に癌が発生し数年後に反対側に発生するケースがあります。

 

そのために遺伝性乳がんの特性から、選択肢の1つとして対側の乳房を予防的に切除することも行われています。

 

 

乳がん治療に大切なことは生活の質を低下させないこと

 

 

乳がんの年齢別罹患率

 

 

いま乳がんは、比較的40代と50代の働く世代であり家庭を支えている母親でもある方に多く発症しています。

そのこともあり乳がんの治療に対して、生活を支えるということが大きな目標になっています。

 

そこで、使用する薬剤についてQOL(生活の質)を保ちながら、治療も上手く行えるように配慮します。

 

また例えば若い方でも乳がんになることがあり、治療が終わった後に妊娠ができるようにする、治療中に妊娠がわかったときでも妊娠を継続しながら治療が並行して行えるように配慮しています。

 

乳がんの場合、チーム医療が重要になってきます。

そして、様々な診療科と連携して患者さんを中心とする医療を進めて行く必要があります。

 

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